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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

黄色いベスト抗議行動1周年

 2019年も幕を閉じようとしている。振り返れば、猛暑や自然災害も記憶に残ることだが、やはり何と言っても1年中続いた「黄色いベスト」の抗議行動がこの年を代表するであろう。11月16日に一周年記念の集会が計画され、フランス各地でいつものように暴動がらみの騒動があった。そう、もう「いつものように」という表現が当たり前のように使われる。

 「そもそものきっかけは何だったのか?」─ 2019年1月から実施されるガソリンやディーゼル燃料への課税(燃料税)引上げへの抗議だった。地球温暖化対策として2040年までにガソリンおよびディーゼル車の販売を禁止する方針がすでに表明されており、燃料税増税は代替となる電気自動車の普及(研究開発から購入補助金まで)の資金のためと政府は説明していた。

 「なぜ黄色いベストか?」─燃料税増税は、自動車利用者を直撃するのは明白だ。フランスでは、自動車には黄色い蛍光色のベストを装備することが義務付けられており、高速道路などで車外に出る時は着用しなければならい。つまり、全てのドライバーにとりおなじみのものであり、皆が所持していた。

 「特徴1 SNS」─抗議行動の始まりは、SNSでの増税不満表明がきっかけとなり拡散したことだった。従来の労働組合主導の抗議デモなどとは明らかに異なっており、政府は対応に苦慮した。というのは、政府が話合いを持ち掛けようにも、代表者不在状態で、前例のない状況だった。SNSがきっかけとなる抗議行動は、「アラブの春」をはじめ、近年では世界中で事例が認められるが、フランスではこれが初めてである。

 「特徴2 暴動」─世界一美しい通りと評されるシャンゼリゼに武装装甲車が並ぶ様子は、ショッキングな映像だった。「破壊屋」と呼ばれる暴徒が抗議行動に紛れ込み、暴動や略奪行為を扇動した。シャンゼリゼのみならず、フランス中で商行為が妨害され、商業施設が襲われた。当然売上高は激減し、被害額は推して知るべし状態だ。

 「特徴3 目的の広がり」─燃料税増税反対から、経済状況全般への不満に及び、ひいてはマクロン大統領退陣要求にまで至った。今やあらゆる不満のはけ口と言っても過言ではなかろう。

 政府は燃料税増税凍結、最低賃金引上げほか数々の対策を講じたが、未だ終結できない。抗議行動を積極的に支持するというより、うんざりしている人達も多く見受けられるが、「今日で終わり」という日は来るのだろうか?

◇初出=『ふらんす』2020年1月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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