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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

年金改革と大ストライキ

 あと10日でクリスマスというパリの日曜日は閑散としたものだった。いつもなら買物客や美しいイルミネーションを楽しむ市民でひときわ賑わうのだが。

 理由は、12月5日から始まった交通機関を中心とする大ストライキである。年金改革に反対し、フランスの交通機関がマヒしている。

 この年金改革は、42種類もの年金システムを単一化し、受給年齢の引き上げを目的とするものである。特に受給開始年齢などの給付条件で優遇されている国鉄(SNCF)や、地下鉄やバスを運行する交通公団(パリのRATP など)が、既得権益を主張し続けている。そして公立学校の教員、公立病院、郵便局、警察、消防、電力会社など公立の機関が一斉にストライキに突入した。航空会社や管制塔職員もスト参加を表明する労働組合員により運行に支障をきたした。

 高速鉄道TGVや鉄道網、近郊からの通勤路線は4本に1本くらいの運行。パリの地下鉄は運転手のいない新交通システムの2路線を除き、ほぼ全面ストップ。バスは40%の運行と発表していたが、スト参加者に出庫を阻まれ予定を下回る運行となった。パリ市内や近郊の道路は大渋滞、日々記録を更新している。

 日本を含め世界の国々で年金改革は行われた。年金受給年齢はどんどん伸びている。フランスは未だ62歳である。受給額も多い。特に優遇されている鉄道職員を例にとると、フランスの受給開始年齢は52歳。それに対しイタリアは58歳、ドイツ66歳である。受給額の統計値はわからなかったが、給与がフランス3450ユーロ、ドイツ2900ユーロであることからして受給額もフランスが上回っているであろう。

 年金改革では、1995年にストが3週間続き、当時のシラク大統領も根負けした前例がある。以来、年金改革は火中の栗で、着手しない大統領もいた。その点では、マクロン大統領は選挙公約にも挙げていたし、大ストライキが予想されても改革を断行する姿勢を示したのである。現在、フランスのGDPの14%が年金であり(日本は9%)、財政を圧迫している。国民の74%は改革の必要を認めている。しかし、いざ我が身となると、消極的姿勢となる。また改革がわかりにくいという声もある。

 パリはマヒ状態だが、クリスマス前の賑わいを謳歌している街がある。それはリヨンだ。市内及び近郊の交通機関は民営化しており、通常の運行状況である。大損失を訴えるパリの商業施設と真逆の様相だ。パリを見限る企業も出るだろう。新交通システムや民営により、新しい風が吹くのを期待したくなる。

◇初出=『ふらんす』2020年2月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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