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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

パリのメトロと新交通システム

 9月13日、パリの公共交通機関で大規模なストがあった。地下鉄、バス、トラム、近郊高速線(RER)など、ほとんどが運休となった。年金受給年齢の引き上げに反対するものである。2年ぶりの大規模なストだった。

 ストに慣れっこのパリ圏の人々は、振替勤務や自宅でのTele 勤務で対処したり、歩いて出勤したりと策を講じていた。「○○駅から歩いてきたよ。久々にパリを散歩して気持ち良かった。セーヌはきれいだな」など、優雅な反応も多かった。快晴の気持ちの良い日だったことが幸いしたようだ。徒歩を選択した人は、一様に「雨が降らなくてよかった」と天気に感謝していた。

 ストも定年問題もいつものことだが、今回のストでは新たなこともあった。それは、ほぼ地下鉄全路線の運休に対し、1番線と14番線の2路線は通常通り運行したことである。理由は、新交通システムだ。運転手の代わりに、コントロール室で運行を制御するシステムだ。もちろん運転のコントロール業務に従事する人が皆ストに参加したら、運行できないのだが。

 パリの地下鉄では、最新路線の14番線が1998年の開業時から、1900年開業の最古の路線である1番線が2011年から、無人運転となっている。現在も新交通システムの拡張計画は進行中だ。

 新交通システムは、人件費のコストダウンや人的ミスの減少などのメリットが挙げられている。なるほど、今回のストではかなりなパフォーマンスを披露したものである。新交通システムに懐疑的だった人も一目置いたかもしれない。

 日本でも「ゆりかもめ」を初め、新交通システムは導入されているが、地下鉄には採用されていない。地下の方が危険だからだそうだ。フランスも普及には時間をかけた。システムの理解のため広報活動を重ね、駅を明るくしたり、車両の窓を大きくしたり、線路との境界壁を透明にしたりと手を尽くした。

 何より安全面が重視されるが、なんと9月17日、ストのわずか3日後に、新交通システムで初めて大きなトラブルがあった。1番線で3駅も止まらずに通過してしまった。乗客がどんなに驚き恐怖を感じたことか。幸い事故には至らず、負傷者などもなかったが、ストでの一歩前進から再び後退してしまった。原因はまだ調査中だ。

 新交通システムでは、誤作動ではなく人的ミスだったようだが、6月に神奈川でも無人運転の電車が逆走する事故があった。フランス国鉄も2023年までに無人運転の試験計画を発表している。技術の進歩と社会的許容がせめぎあっている。

◇初出=『ふらんす』2019年11月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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