2018年3月号 フランスの鉄道が抱える問題
なくてはならない交通機関の一つが鉄道である。長距離の移動から日々の通勤までと範囲は広い。TGVを擁するフランスは世界でもトップクラスの技術力を誇る。肩を並べる日本と比較すると、筆者の印象では、正確さと清潔さは日本、運賃はフランスに軍配があがる。
料金の高い新幹線に比べ、TGVは近年の飛行機との競争で鉄道版LC(Low Cost)も生まれ、価格帯の幅が広がった。2013年4月から運行を開始したLC版TGV、OUIGOの成功にSNCF(フランス国有鉄道)も満足のようだ。LC版と言うだけあって、価格が安い代わりに様々な制約が付く。パリの発着駅も市内ではなく、昨年まではパリ近郊の駅だった。その代わりに、パリを迂回して地方をつなぐ路線(ボルドー=ストラスブール間など)が生まれた。そして、昨年はパリのモンパルナス駅が拡張され、ついにパリ市内に乗り入れた。
こんなに安いのに、TGV利用者は「まだ高い」と言う。SNCFは、廉価便は廉価に、ビジネス便は便利で快適にとそれぞれ特徴を持たせ、それにより価格も異なると説明している。確かに予約の変更条件や、車内サービスに違いがある。選ぶのは利用者だ。
しかし、何もかもうまくいっているわけではない。昨年は情報設備のバグが原因で、多数の列車が運休になるという前代未聞の騒動があった。何がどうしたのか原因の説明もなく、いつ復旧するのかめども立たず大混乱だった。
そして、クリスマスにも大騒ぎがあった。本来TGVは全席指定だが、新たな試みとして、クリスマス期間中、予約不要の全席自由席のTGVを走らせるとSNCFは宣伝した。「地下鉄に乗るようにTGVに乗る」というものだった。日本人なら帰省ラッシュ時の新幹線自由席がどういうものかわかっているが、初めてのフランス人は大混乱に陥った。早く行って並ぶなど知らなかったのだ。当然乗れない人が出て、怒れる集団と化した。
また、正確さの点で、遅れの問題がある。特に通勤電車の慢性的な遅延が問題視されている。「5分や10分ならいいが、30分以上の遅れにはうんざりする」と通勤客は言う。パリ近郊からの通勤電車のみならず、地方都市でも慢性的な遅れが指摘されている。ヨーロッパ諸国では、5分1秒から「遅延」と認識するそうだが、フランスでは5分59秒以上の遅れだそうだ。この1分間の差で、統計上はフランスの成績は良い。パリ近郊路線では、RERのA線の30パーセントを筆頭に平均12パーセントの電車が遅れる。通勤客の10人に1人が影響を受けているという。ため息のない通勤が望まれる。
◇初出=『ふらんす』2018年3月号