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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

風力発電と景観の問題

 地球温暖化対策として、再生可能エネルギー(énergie renouvelable)の開発が活発になっている。これは世界的な傾向であり、関心を寄せない国はない。フランスのように世界一の原発国であっても、この潮流を無視するわけにはいかず、政府は、2030年までに全電力の30%超を再生可能エネルギーによるものとすると発表している。

 再生可能エネルギーとは、水力、風力、太陽光、バイオマス、地熱などである。現在、フランスの電力供給は、70%以上(2018年には約75%)が原子力発電によるものであり、再生可能エネルギーは約17%である。その内訳をみると、水力が9.2%、風力が4.5%と続き、他はいずれもわずか1%ほどだ。

 今、フランスで話題になり、報道でもしばしば取り上げられているのが、風力発電だ。風力発電は、日本国内でも目にするように、あの巨大な羽を風の力でぐるぐる回すものだ。この設置について、住民から反対運動が起こっている。理由は景観の破壊である。

 風力発電の建設予定箇所はフランス国内でも何か所も挙げられているが、もちろん都市や都市近郊ではなく、田園地帯である。緑豊かな美しい稜線が見渡せる自然に囲まれた地域に、いきなりあの巨大な羽が並ぶのは見たくないというのである。さらに、「電力を必要としているのは、地域住人ではなく、都市部の住人ではないか。他人のために、田舎に住む者が、唯一享受しうる自然の美しさを失いたくない」と主張している。それは、一個人の反対意見というより、フランスが失う田園風景への警鐘であるとも捉えられる。フランスの豊かな田園風景は、他ではなかなか見られるものではなく、その損失の大きさは計り知れない。

 2019年2月に実施された約6 万人に対するアンケートでは、風力発電開発を続けるべきかという質問に対し、賛成は31%で、半数以上が反対だった。設置計画をCGによるシミュレーション画像で示すと確かに眉をひそめる人が多い。

 風力発電において、世界的には、欧州、中国を中心とするアジア、そして北米の順で開発が進んでいる。風力発電量の国別順位は、中国、アメリカ、ドイツ、スペイン、インドと続き、フランスは9番目である。ちなみに日本はトップ10に入っていない。

 再生可能エネルギー開発には、助成金など様々な要素が複雑に絡み合っているという。また欧州諸国においても、中国企業の進出に対して問題がないわけではないと報道されている。注目の開発分野であり、投資額も大きいため、慎重な方針が求められている。

◇初出=『ふらんす』2019年4月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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