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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

フランスの銀行の変革

 日本では、大手都市銀行のみならず地方銀行も支店の統廃合による支店数の削減、および行員の希望退職募集、さらには新入行員の募集削減と、大きな変革期であることが話題となっている。かつて80年代のバブルの頃は、就職人気もトップであり、高額な給与は他を大きく引き離していた。医師よりも銀行員の方が、生涯所得が多いと試算されていた。

 フランスでも同様の状況だ。フランス3大銀行BNP Paribas、LCL、Société Générale も、それぞれ人員削減を数千人単位で実行すると発表し、支店の閉店が続いている。低い金利の設定による収益減少が大きな原因であるが、ネット・バンキングの普及と、キャッシュレス生活の浸透という銀行を取り巻く環境変化が支店や人員の削減に拍車をかけている。さらにはAI も変革の要因となっている。

 日本人に比べて、以前より現金を持たないフランス人であったが、その昔はお財布と共に小切手帳を必ず携帯していた。そして小切手帳は、クレジットカードが取って代わったが、店舗以外での支払いはまだまだ小切手が主流だった。学費、年間保険料、納税、家庭での修理費やサービスへの支払いなど。

 このような小切手払いが主流だった項目も、今やクレジットカード払いとなった。税金も罰金もカード払いのご時世だ。さらに、カード払いするほどでもない少額な支払いが、「かざす」機能がカードに付与されたことにより、今はパン1つ買うのもカードをかざして支払うようになった。いまや小銭を持つことが、とても煩わしく感じられるようになった。

 暗証番号を必要としない「かざす」支払いは、安全のため、1回20ユーロ(銀行によっては30ユーロ)、1日100ユーロまでと制限が設けられている。

 また新たなネット・バンクの設立が目白押しだ。知らない間にネット・バンクがたくさんできていた。すべてをネットで行うので、当然手数料は安い。銀行によっては保証のため、ある程度の預金が条件であったり、月収の証明(月収1000ユーロ以上などの条件)が必要だったりする。日常生活を送る上では、ネット・バンクで十分のようだ。

 従来型の銀行は、投資や貸付相談が主たる業務となり、支店からカウンターがなくなって早10年は経とうとしている。一方この変化の中、面白い統計もある。フランス人は人生で最初に口座を作った銀行から変わることは非常にまれだそうだ。そして、最初に選ぶ銀行は、パパやママンが使っていた銀行だそうだ。なんとも和む統計である。

◇初出=『ふらんす』2019年6月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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