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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

2017年6月号 歩きスマホとヨーロッパ交通事故事情

歩きスマホとヨーロッパ交通事故事情

 スマホあるところ、歩きスマホ問題がある。ここフランスも御多分にもれず、どんなに危険性を喚起し注意しても、減少どころか、スマホの普及率に比例して増加の一途である。携帯電話時代は、まだ歩きながら通話しているだけで注意が散漫になる程度だったが、歩きスマホとなると周りを見ないで歩いているわけで、危険極まりない。筆者は若い子じゃあるまいし、歩きスマホなどしていないと思っていたが、ある日、GPSを見ながら歩いている自分に気づき、はっとした。

 先日もテレビニュースで取り上げていたが、歩行者の交通事故死は全体の約17%を占め、そのうちの半数は歩行者の不注意によるという。その主な原因は歩きスマホだそうだ。年齢を25歳から35歳に絞れば、その割合は22%にのぼる。

 歩きながら何をしているかと言うと、真剣にネットで調べ物をしているわけではなく、SMS(ショート・メッセージ)を読んだり書いたりが主で、あとは聞く音楽を選んでいたりなど、ちょっとしたことが多いらしい。

 欧州都市部の地下鉄や駅など人込みでの使用についての調査結果は次のようである。断トツはストックホルムで、24%の人が歩きスマホをしていたという。4人に1人の割合だ。続いてパリとブリュッセルが14%、ローマ10%、アムステルダム8%である。だいたい10人に1人が、人込みの中を歩きスマホしていることになる。

 再三の注意にも拘らず、減少しないのであれば、何らかの対策を取らなければならない。子供や未成年者も多いため、罰金による罰則規定を設けるわけにもいかない。歩きスマホ禁止の看板やポスターでは、何ら効果がみられない。ドイツでは、視線を落として歩いている人でも気づくように、信号があるところの地面にLEDライトを埋め込み、赤や青を点灯させるという試みを行っている。オランダでも同様に地面に埋め込む信号や車線表示の実験を行っているという。自転車利用の多いオランダでは、自転車と歩行者の接触事故が多発しているそうだ。

 歩きスマホからは少し離れるが、運転中の携帯電話の使用はフランスでも厳しく禁止されており、罰金と減点が課される。車内に装備されたブルートゥースに接続させ、両手をハンドルから離さず通話することのみ認められている。GPSの設定や、SMSの送信などスマホの画面操作は絶対禁止である。若年層の交通事故の原因も、以前は飲酒であったが、今はスマホ操作が首位となった。

 歩きスマホしてると、犬のフン踏んじゃうよ、とでも言うほうがよほど効果的かもしれない。

 

◇初出=『ふらんす』2017年6月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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