猛暑を振り返る
2018年の夏は、世界的な猛暑だった。中東や北米では50度を超えた。日本の40度越えの記録も、フランスで大きく報道された。欧州ではスカンジナビア最北でも30度を超え、スペインやポルトガルでは46度を記録した。フランス国内でも各地で記録的な暑さが続いたが、新記録とまではならず、リールの37度が最高気温だった。
2003年の猛暑で多くの死者を出したフランスは、それ以来、猛暑に対する注意喚起を怠らない。水分補給、運動の禁止、涼しい場所で過ごすなど、日本人から見ればおなじみの内容だ。しかし、冷房をつけましょうという項目はまだない。冷房設備のある家庭は、ほとんどないからだ。今や扇風機くらいはある家が増えたが、その扇風機もパリでは、暑い年に2週間ほど必要になる程度だ。
フランスは湿度が低く、気温が上昇してもカラッとしている。また、パリのような大都会でもまだ熱帯夜にはなったことがない。そして古い建物は、厚みのある石造りである。これらの要素から、暑さのしのぎ方も日本とは異なる。
日本では、風を通すという目的で窓を開け放つが、これと真逆の対応をするのがフランスだ。石造りの建物は、外がどんなに暑くても、入るとヒンヤリする。朝方に、気温の低い夜気を十分に室内に取り込み、日が昇り気温が上がり始めると、ぴったりと窓を閉め、鎧戸も閉じて日光を遮る。これが一般的なフランスの暑さへの対処だ。しかし、今年のような猛暑では、冷房が欲しくなる。
この猛暑では、川の水温上昇防止のため、ローヌ河とロワール河沿いの原発4基が稼働を一時停止した。冷却用の川の水温が上昇したためではなく、冷却用に使用した水を川に戻すことにより水温が上昇するのを防ぐためだ。放水により、0.3 度ほど水温が高くなるという。生態系を配慮した措置だったそうだ。
今年に限らず、夏の気温が上昇しているフランスでは、虫や植物の変化も報告されている。蚊やゴキブリは、フランス南部以外では見られなかったが、どんどん北上している。他にも高温地帯のアリや虫がフランスに生息し始め、北に生息域を広げている。
ワイン用のブドウも、今までは生育できなかった寒い地方で栽培されるようになった。また、少し渋い味が売りだった地域のワインが、気温上昇によりブドウの熟成度が高まり、北アフリカやスペインなどの地域のワインの味に似てきたとも言われている。日本でも、北海道で上質の米が収穫できるとか、フグが大漁といった報道がある。自然界は正直だ。異常気象や温暖化問題を痛感した夏だった。
◇初出=『ふらんす』2018年11月号