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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

ガソリン価格の高騰への抗議

 11月下旬の週末に、「黄色いベスト=gilets jaunes」と呼ばれる政府への抗議行動があり、フランス全土でデモと道路封鎖があった。「黄色いベスト」とは、故障や事故で、運転手などが車道へ出る必要がある時に装着を義務付けられている蛍光色のベストだ。自動車には必ず装備されており、ドライバーにはおなじみである。抗議参加者は、全員「黄色いベスト」を着て、ドライバーあるいは自動車利用者であることを示した。

 抗議初日だけで、28万人が参加し、影響を懸念した市民たちは週末の外出を控え、市場や催しが中止になったところもあり、ガランとした週末だった。今回の抗議行動は、全国的な広範囲に及ぶものであるにもかかわらず、決定が早く、参加者も多かった。その理由に、SNSの利用が挙げられている。つまり、従来型の抗議行動は、例えば労働組合などのデモやストの場合は、組織者がいて、その指示に従って参加者が動員されるものだ。しかし、今回のように何のくくりもない一般市民に多く呼びかけるにはSNS が最適なツールだったようだ。

 抗議の目的は、燃料税(ここでは軽油を含むガソリンにかかる税を示す)の増税に反対するものだ。このところの燃料原価自体の高騰に加え、さらに燃料税を増税するという大統領の発言により火が付いた。フランスは現在約30憶ユーロ(約4000億円)の歳入不足があり、増税が必要となるが、その増税対象として燃料税が挙げられた。これには、環境対策目的もあり、フランスは電気自動車への全面移行を国策として掲げている背景がある。

 しかし、自動車を必要不可欠な移動手段とする人や、流通業者にとっては、燃料費の上昇はひっ迫した問題である。原油価格の高騰は致し方ないとして、増税によるさらなる価格上昇はたまったものではない、ということだ。

 燃料の小売価格のうち、約60パーセントが税金である。燃料税(エネルギー製品消費税)と、付加価値税だ。消費者からみれば、税金ばかりじゃないかということになる。国からみれば、重要な財源で、燃料税だけで2兆800億円、税収4位である。ちなみに1位は付加価値税(19兆円)、次いで個人所得税、法人税と続く。

 EU 各国の税率は、オランダの68パーセントを筆頭にフランスは8番目であり、平均的な税率だ。世界的に見ると、北米や中米の税率は非常に低く、アメリカはフランスの半分。また、サウジやイランの産油国では石油消費を助成している。国策の大きな関与を感じる。フランスは増税案を取り下げない限り、まだまだ抗議は続きそうな気配だ。

◇初出=『ふらんす』2019年1月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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