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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

黄色いベスト、デモから暴動へ

 先月号でも取り上げたとおり、11月17日土曜日に、最初の「黄色いベストGilets jaunes」と呼ばれる政府への抗議行動があった。自動車に装備することが義務付けられている安全ベストを着て、燃料税の増税に反対するものだった。デモにもトラック運転手たちの通行妨害にも慣れっこになっているフランス人は、当初は「またデモだって」という感覚だった。

 2度目の抗議行動は、翌週11月24日土曜日に行われた。エッフェル塔のあるシャン・ド・マルスでの集会が許可されていたが、参加者はそれを無視し、シャンゼリゼに集結した。一部の参加者が暴徒化し、治安部隊Force de l’ordre と衝突した。この暴徒たちは「壊し屋casseurs」と呼ばれ、抗議行動の趣旨に賛同して集まるのではなく、ただ暴れたい人たちである。サッカーのフーリガンや学生のデモに混じるなど、あらゆる所に出没する。この「壊し屋」という言葉も、今や新しいものではなくなり、国民はため息交じりに「ああ、またか」と思うようになっている。

 3度目は、12月1日土曜日だった。大統領官邸からシャンゼリゼ通りが封鎖され暴徒に備えたが、破壊行為は予想をはるかに上回った。その様子は世界中に動画で配信された。自動車が燃やされ、店舗のガラスが割られ略奪行為があちらこちらで起こった。営業中だったデパートも夕方になり、急遽閉店した。凱旋門は落書きされ、内部の博物館でも、革命時から自由の象徴とされるマリアンヌのオリジナル象が破壊された。抗議者の主張も燃料税増税反対だけではなく、一向に豊かにならない生活全般に向けられ、マクロン大統領の経済政策失敗を言及するものとなった。流通は滞り、クリスマス前の売上げはガタ落ち、日本を含め各国はフランスへの渡航自粛を求め、観光収入も激減した。

 4度目の12月8日土曜日は、パリには装甲車までもが配備され、前代未聞の物々しさだった。政府は話合いの姿勢を示したが効果はなく、燃料税の値上げ先送りも発表したが、不満は収まらなかった。店舗のショーウインドーは覆われ、多くの美術館、観光名所、デパートなども閉められた。パリに限れば、抗議行動参加者数は前回よりはるかに少なかったが、破壊行為は収まりを見せなかった。

 週明けの月曜日に大統領が国民に向けテレビ演説し、最低賃金の引上げ、社会保障税の一部免除、ボーナスや残業代への免税などの諸政策を示した。これで抗議活動が収束するのかどうかは、当原稿執筆中の現時点では予想できない。クリスマス・イルミネーションの華やぎを楽しむこともない日々だ。

◇初出=『ふらんす』2019年2月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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