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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

ルーヴル博物館、巨大倉庫完成

 10月8日、ベルギー国境に近いリエヴァンLiévin に、ルーヴル博物館の所蔵品を保管する巨大な倉庫が完成した。9,600平方メートルに25万点の所蔵品が収蔵される。査定不能の価値を持つ所蔵品を収めるわけなので、倉庫といえども巨大な金庫並みのセキュリティで守られている。

 全て半地下の建物は、高さの低い平べったいもので、大きさに比して周囲の自然環境に溶け込み目立たないようになっている。そして、屋根は全て草を植えた自然緑地である。半地下や緑地屋根の採用は、環境への配慮だけではなく、所蔵品のために一定の温度を維持するのにも適しているからだそうだ。

 巨大倉庫の建設は、もちろんルーヴルの所蔵品の多さが第一の理由であるが、そもそもルーヴル博物館は16世紀の宮殿であり、博物館として建てられたものではなく非常に使いにくいことが要因だ。1980年代以降、展示物の一部をオルセー美術館に移したり、地下部分を拡張したり、アラブ文化の展示翼を建設したりと常に近代化してきた。それでも、見学者には見えないが、使い勝手の悪い元宮殿に、修復作業所や研究所、そして倉庫が地下室や屋根裏にぎゅうぎゅう詰めに同居していたのである。

 とりわけ倉庫については、セーヌ川の水位が上がるたびに、所蔵品を非難させなければならず、大変な作業だった。新倉庫のおかげで、浸水の危険を回避し、快適な環境で所蔵できるようになったのである。広い搬入搬出口や移動に便利な廊下と装置、ほこり除去、適切な温度と湿度での管理など、最新技術を集めた倉庫だそうだ。そして、修復作業所や研究所も一緒に引越し、世界一とも評される修復作業は更に高度な技術を発揮できるという。世界中から修復依頼が引きも切らず殺到している。

 2012年に開館したランスLens のルーヴル博物館の展示の変更も容易になるようだ。このランスのルーヴルは、パリのルーヴルで展示しきれない所蔵物を展示すると共に、年に2回特別展を催している。今までになく倉庫からの搬入出が増え、その容易さは重要になっている。

 世界トップレベルの倉庫完成だが、一方でなぜパリから200キロも離れたところに作ったのかという批判もある(ランスからは遠くない)。ロンドンの大英博物館を引き合いに出し、大英博物館はロンドンから80キロの所に作ったのにと不満を口にする関係者もいる。それに対して、大英博物館とルーヴルでは量が比較にならないだろうと反論が起こり議論は止まない。しかし、もう完成してしまったのだから、今さらという話である。

◇初出=『ふらんす』2019年12月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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