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「アクチュアリテ 政治」山口昌子

2017年5月号 そして、誰もいなくなった大統領選

そして、誰もいなくなった大統領選

 2017年の大統領選(直接選挙、2回投票=4月23日、5月7日)では出馬するとみられていた有力候補者が次々と消えるという前代未聞の事態になった。

 まず、再選を狙うと見られていたフランソワ・オランド大統領が昨年12月、不出馬を宣言した。直接、引導を渡したのは大統領と一心同体のはずのマニュエル・ヴァルス前首相だった。その前にボディブローを与えたのが、ロチルド(ロスチャイルド)銀行から引き抜かれて大統領府事務局長補、次いで経済・産業・デジタル相に取り立てられたエマニュエル・マクロンだ。昨春、右派でも左派でもない政治グループ「前進!」を結成。夏には閣僚を辞任して秋に出馬宣言。この2人の支持率が上がる中、大統領は出馬を断念した。そのヴァルスも1月末の社会党の予備選でブノワ・アモン前国民教育相に敗北した。

 右派では11月末の共和党(LR)と中道右派政党、民主独立連合(UDI)の合同予備選でニコラ・サルコジ前大統領とアラン・ジュペ元首相の2人がフランソワ・フィヨン元首相に敗れて、消えた。そのフィヨンは夫人と子供2人のカラ雇用容疑で本格的な取り調べが開始されたうえ、高価な背広を支持者に贈られた収賄疑惑も発生。支持率低下で2回投票への進出が危ぶまれている(3月中旬現在)。

 左右の有力候補が消えた中で、大物候補は極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首だけだ。決戦投票への進出が予測されている。

 過去3回出馬し、4回目の戦いに挑むと見られていた中道右派政党・民主運動のフランソワ・バイル議長もマクロン支持を表明して舞台から去った。

 毎回、候補者を立てていた共産党は今回はヨーロッパ・エコロジー=緑の党(EELV)の公認候補を応援する方針だが、そのEELVの長年の事実上の党首だった事務局長のセシル・デュフロが昨年の予備選で敗退。さらに後任のパスカル・デュランもアモン支持を表明して、環境政党も立候補者なしだ。

 左派の隟間を埋めて頑張っているのが左翼政党の戧始者で大統領選用に「服従しないフランス」を立ち上げたジャン=リュック・メランションだ。「第六共和政」を主張して2015年に早々に出馬宣言した。

 3月17日の届け出終了時点で、他に主権派の「立ち上がれフランス」のニコラ・デュポン=エニャン、極左の「労働者の戦い」のナタリー・アルト党首と「反資本主義新党」のフィリップ・プトー党首ら計11人が出馬を正式に公認された。

 大物候補者が誰もいなくなった大統領選で、さて、誰が勝利の美酒に酔うのか。

 

◇初出=『ふらんす』2017年5月号

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著者略歴

  1. 山口昌子(やまぐち・しょうこ)

    産經新聞前パリ支局長。著書『フランス流テロとの戦い方』『パリの福澤諭吉』

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