混沌のフランス政界
「第五共和政(1958年制定)発足以来の珍事」と言われたのが、コロン前内相が辞任して「共和国前進」(LREM)党首クリストフ・カスタネールが新内相に就任するまでの2週間、テロや大災害発生時の「警官No.1」が不在だったことだ。その間、フィリップ首相が兼務したとはいえ、異常事態だ。
一方で、政権党でもあった社会党の本部が、パリ7区の一等地を売却してパリ郊外へと移転した。文字通りの都落ちだ。党員激減などで大赤字の党の財政再建のためだ。昨年の大統領選ではアモン元国民教育相が公認候補として出馬したが、約6パーセントの低得票率に終わったうえ、左派政党を結成して党を去った。社会党のエースと目されたヴァルス前首相は、昨年の総選挙ではLREM から出馬し辛うじて当選したが、生地バルセロナでの来春の市長選に立候補、仏政界から消え去った。
大統領選で敗退した極右政党・ルペン党首は党名を国民戦線(FN)から国民連合(RN)に改称して心機一転を図ったが、理論的支柱だったNo.2 のフロリアン・フィリッポが党外に去った。ルペンは欧州議会議員としてカラ雇用容疑も抱えている。司法当局の喚問を拒否するなど強気だが、前途は不透明だ。
「マクロンの唯一のライバル」と仏メディアが持ち上げる極左政党「服従しないフランス」のリーダー、メランションも司法問題を2件抱えている。大統領選での不正資金問題と欧州議員としてのカラ雇用容疑だ。司法当局が10月中旬に党本部の家宅捜索を行なった際、警官や予審判事を罵倒したうえ、警官1 人を突き倒すなどの暴力行為で、男を下げた。
「こうした行為を絶対に許さない」とメランションを厳しく断罪したのがカスタネール新内相だ。社会党議員だったが、マクロンの選挙戦を最初から主導した側近中の側近だ。52歳の働き盛り。社会党の重鎮だった70歳のコロンは動きが鈍いうえ、長年勤めたリヨン市長の椅子に未練たっぷりで、絶えず〝里帰り〟していたので省内での評判は良くなかった。
マクロン政権は、フィリップ首相が右派政党・共和党(LR)の出身、今回の内閣改造でも社会党のディディエ・ギヨーム上院議員が農業・食糧相に、中道右派政党・民主運動(MoDom) のマルク・フェノーが国民議会連絡相、LR 出身で大統領選後は右派新党アジール戧設のフランク・リステールが文化相と、左右から入閣の混合部隊だ。内相任命が遅れたのも左右の均衡に苦慮したからだ。仏政界の混沌ぶりは、ベルリンの壁崩壊後のポスト・イデオロギーを象徴しているともいえそうだ。
◇初出=『ふらんす』2018年12月号