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「アクチュアリテ 政治」山口昌子

マクロン大統領夫人が教職に復帰

 ブリジット・マクロン大統領夫人(66)に関しては、夫(41)よりも25歳も年長なことや、ミニの似合う美脚ばかりが喧伝されており、優秀なフランス語教師だったことは忘れられがちだ。

 そもそも15歳の少年が生まれ育った仏北中部アミアンの中学教師と恋に落ち、「絶対、あなたと結婚する」と宣言し、30歳の時にその宣言を実行に移したのは、女性教師の素晴らしいフランス語と、それを生かした演劇クラブでの指導ぶりのはずだ。彼女にはすでに夫も3人の子どももいたが、少年との純愛を貫くために、離婚した。

 フランスでは、公立私立を問わず、中学、高校の正規の教師になるには試験に合格した国家認定の教職資格が必要だ。夫人はもちろん、この資格保有者だ。若い夫との結婚後は高級住宅地パリ16区のカトリック系の高校で教鞭を取ったが、夫が経済相に就任した2016年に退職した。その後は大統領選に出馬する夫のために影のごとく付き添い、3人の子どもや孫まで動員して援護射撃をした。

 代々の大統領夫人はエリゼ宮(仏大統領府)に個室を持ち、専任の秘書や広報担当と共に、手紙の整理をしたり、「大統領夫人」としての公務をこなしている。ブリジット夫人は、17年5月のエリゼ宮入り以来、教師の資格を生かして国民の役に立ちたいと、「自閉症の児童の教育」を目指して、4月末にはパリ郊外の施設も訪問した。

 しかし、自閉症の児童の場合は、医学的知識などが必要なため、即実行は困難。そこで、簡単に実行可能な「ディクテ(書きとり)」の練習を、エリゼ宮の最大広間「祝祭の間」に中学生を集めて実施した。フランスでは近年、「ディクテ」の能力が落ちており、複数や女性、男性の形容詞などの文法を正確に書きとれない学生が増えているからだ。

 こうした試行錯誤の末に落ち着いたのが、「何の資格も持たないために、就職の道が開けない25歳から35歳の女性のための訓練所」の設立だ。フランス語はもとより、種々の資格取得のために手助けをしようというわけだ。資金などはラグジュアリーブランド・グループのLVHM(モネ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)が支援する。夫人が大統領夫人として、初めてエリゼ宮入りした日に着用した明るいブルーのスーツやベージュのバックは同社製で、夫人とは縁が深い。

 8月末にはフランスが議長国の主要国首脳会議(サミット)が南西部ビアリッツで開催され、大統領夫人としても準備で忙しいが、施設の9月開講を目指して、場所の物色などに余念がない。この夏はヴァカンス返上で、「教師復活」に賭けている。

◇初出=『ふらんす』2019年7月号

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著者略歴

  1. 山口昌子(やまぐち・しょうこ)

    産經新聞前パリ支局長。著書『フランス流テロとの戦い方』『パリの福澤諭吉』

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