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「アクチュアリテ 政治」山口昌子

2018年3月号 マクロンの1人勝ち?

 エマニュエル・マクロン大統領の内外での1人勝ち状態が続いている。就任直後に急落した支持率も昨年暮れから約50パーセントに上昇し、国内には敵なしの状態だ。国際的にも、トランプ米大統領をはじめ英独ロの首脳らの基盤が不安定なのに対し、目下のところ盤石だ。

 昨年12月21日に40歳を迎えた大統領は、新年に向けてのテレビ・ラジオ演説で、「フランスをより強力に、より公平にすること。世界の変化に適応させるだけではなく国際的な要請に対応できるために。より大量な生産が国家的な連帯を保障するだけでなく、国際的に人類としての要請を可能にする」と宣言し、ドゴール将軍ばりに内外での「強いフランス」を前面に押し出した。

 就任直後の支持率急落の主要因は、①約10パーセントの高失業率解消のため、オルドナンス(政府の委任立法権限)という奥の手を使って、「労働改正法」を強行に成立させたことに対する反発、②「私が(三軍の)長」と言い放ち、国防予算削減を公に批判したピエール・ド・ヴィリエ総合参謀総長を辞任に追いやったことへの非難だった。

 フランスは1996年に兵役を廃止したので、マクロンは兵役に従事していない初の大統領だ。「私が長」事件では、軍へのコンプレックスが指摘されたが、一時微妙になった軍との関係も修正されつつある。国防費の7億ユーロ(1ユーロ=約134円)に加え、2018年の国防予算を342億ユーロと2017年比18億ユーロ増を決めた。新年の軍代表との賀状交換会では、大統領選の公約として掲げた「男女1か月の兵役」の実施も明言した。

 「労働改正法」は従業員側にかなり厳しい内容だったが、予測された大規模デモも発生せず、国立統計経済研究所(INSEE)は先ごろ、2018年度は失業率も9.7から9.4パーセントに下がると予測し、奏功が指摘されている。

 大統領選で決戦投票を争ったルペンは欧州議会でのカラ雇用疑惑に加え、指南役だったフロリアン・フィリッポ副党首が対ユーロ政策の相違から党を去るなど党内でもゴタゴタが続き、かつての勢いはない。「反欧州」を標榜し、大統領の「政敵」とされるジャン=リュック・メランションも、このところパッとしない。

 欧州連合(EU)はこの約10年間、メルケル独首相が君臨していたが、「次期リーダーはマクロン」(米タイム誌)が一致した見方だ。主要国首脳会議(G7)では安倍晋三首相が長老格だが、日本は国際会議でリーダーシップをとるのが上手くないだけに、マクロン大統領が牛耳る可能性が大だ。

◇初出=『ふらんす』2018年3月号

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著者略歴

  1. 山口昌子(やまぐち・しょうこ)

    産經新聞前パリ支局長。著書『フランス流テロとの戦い方』『パリの福澤諭吉』

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