フランス環境相の辞任
大臣の辞任の仕方には種々あるが、フランソワ・ドルジ前環境相(48)の場合はグルメの国フランスらしく、「豪華晩餐会」が原因だ。特ダネ連発の左派系ニュースサイト「メディアパルト」が、ドルジの国民議会議長時代に議長官舎で主催した晩餐会12回が「私的な会食だった」と指摘した。つまり、公費を使った「職権乱用、公金横領」だ。
この記事だけなら、フランスでは「よくある話」で驚くに当たらない。上下議会の議長や大臣はもとより、各官庁のトップ級は官舎や省内の立派な個別の食堂で、専任のシェフが腕を振るう「会食」を頻繁に実施しているからだ。友人知人を招待しての「私的会食」も実は、ある。
なにしろ、吐きながら御馳走を次々平らげ、甘いデザートで歯がボロボロになった王様がいた国である。「豪華晩餐会」だけでは問題にならなかったかもしれないが、辞職にまで発展したのは、この記事に添付された写真によるところが大きい。ノーネクタイで笑みをたたえたドルジの前には、深紅のバラの花ビラを散らした白いテーブルクロスに覆われた食卓と、脇のテーブルには赤いナプキンに1匹ずつ包まれた高価なオマールエビの山と銘柄ワイン。しかも日付は2018年2月14日で食器は2組。その2か月前に結婚した、女性誌『ガラ』の記者セブリーヌ夫人とともに、バレンタインデーを祝ったとしか見えない光景だ。
ドルジは仏中西部出身の環境党議員。マクロン政権誕生と同時に国民議会議長に就任したが、それまでは中央政界とは縁遠かった。パリ人脈に強い夫人が作家や研究者、記者仲間を招待しての会食なので、「公的会食」とドルジは主張。国民議会の調査委員会が12回の会食のうち9回を「公的」と認め、バレンタインデーとクリスマスイヴなど3回分の費用だけはドルジが支払うことで決着した。
「メディアパルト」は第2弾として、ドルジが議長官舎の改装・修理費約6万3000ユーロ(約800万円)も公費から支払ったとすっぱ抜いたが、調査委員会は、2003年ごろから修理もされておらず「入居当時、住めない状況」と、こちらもドルジの主張を認めた。
ドルジは辞任後も、「やましいことはない」と身の潔白を繰り返し主張。夫人はアルコールを嗜まず、エコロジストのドルジも少々嗜む程度で、銘柄ワインは招待者のためだと抗弁したが、世論調査では「辞任歓迎」が88パーセントと高かった。
マクロン政権の環境相辞任は環境活動家ニコラ・ユロに次いで2人目。後任はエリザベット・ボルヌ運輸相が兼任。高級官僚出身で手堅い彼女は長続きしそうだ。
◇初出=『ふらんす』2019年10月号