2018年1月号 パリ市長の「パリ大工事」
今年のパリのクリスマスは寂しいものになった。2008年からシャンゼリゼ大通り(長さ1.9 km)の半分、ロンポワン広場からコンコルド広場までを賑わすクリスマス市(いち)が、アンヌ・イダルゴ市長(58歳、社会党)率いるパリ市議会で廃止が決定されたからだ。1998年設置のコンコルド広場の大観覧車も廃止の方向だ。クリスマス市廃止には、露天商らが大通りで屋台を引いてデモを実施して抗議し、行政裁判所に不服申立てもしたが棄却された。「粗悪品が多くて高い」との指摘や、「治安上、危険」などの市民の意見を反映しての措置とか。
イダルゴ市長の露出がこのところ、目立つ。2024年のパリ五輪開催決定のニュースでは、マクロン大統領と並んで笑顔で「祝福」を受けたが、パリ市の「クリーン化」のために、環境移行省が2040年までに大都市でのディーゼル、ガソリン車の走行禁止を発表したのに対し、「遅すぎる」と盛んに息巻き、2030年以降の市内での同種類車の「禁止法案」を来春の市議会に提出すると宣言した。
首都パリの市長だが、「移民大国フランス」を象徴するかのように両親はスペイン人でスペイン生まれの二重国籍。一家は1961年にフランスに移住。仏国籍取得は1973年、14歳の時だ。社会・労組学の専門研究課程(DEA)修了後、1982年に労働視察官試験に5番で合格。ベルトラン・ドラノエ市長の下で第一助役(01-14年)を務め、2014年に市長に選出された。女性のパリ市長は初めてだ。
クリーン化の一環として、セーヌ左岸の河岸脇の道路を2015年から車両禁止の歩行者専用道路にした。この9月には市議会で右岸一帯の約4.5ヘクタールも同様に歩行者専用にすることも決めた。市民や観光客が散歩を楽しむ一方、周辺道路が渋滞になり、はたしてクリーン化が達成されたのか怪しむ声もある。
シャンゼリゼ大通りは第1日曜日は歩行者天国だ。オペラ大通りなど各所でも歩行者天国が実施されているうえ、「大工事」も加わり、うっかり車で外出すると大渋滞に巻き込まれる恐れがある。パリ市告示の「工事予定一覧表」(11月現在)を見ると、高速地下鉄(RER)駅の大工事や老木の植え替え、水道工事、道路拡張工事など短期で3、4日、長期で数年など約40項目がびっしり並んでいる。
シラク元大統領がパリ市長時代、シャンゼリゼ大通りの地下に800台収容の大駐車場を建設する大工事を敢行し、数年後には、「世界で最も美しい大通り」が誕生した。首都パリの本格的な「大工事」となると、市長の地位だけでは難しそうだが、イダルゴ市長が中央政界に打って出る気配はいまのところ、まったくない。
◇初出=『ふらんす』2018年1月号