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「アクチュアリテ 政治」山口昌子

EUの新人事は「フランコフォン」の勝利

 欧州連合(EU)は、揉めに揉めた末に今秋以降の新体制を決めたが、トップ3は揃って仏語話者(フランコフォン)。中でも注目は、国際通貨基金(IMF)専務理事から横滑りの、クリスティーヌ・ラガルドの欧州中央銀行(ECB)総裁就任だ。

 新人事発表の際、マクロン大統領が満面の笑みを浮かべて強調したのが「3トップ全員がフランコフォン」。確かにラガルドはフランス人。欧州理事会常任議長(EU大統領)もフランス語圏のベルギーのミシェル首相だが、欧州委員長はドイツのフォンデアライエン国防相だ。「彼女はベルギー生まれで父上[大臣経験のある政治家]の仕事の関係もありフランス語がペラペラ」がマクロンの説明だ。

 この3人、実は揃ってサプライズ人事だが、影にフランスの後押しがあった。フランスが国際機関のトップにフランス人やフランコフォンにご執心なのは今に始まったことではない。フランス語ならツーカーでフランスの国益獲得に有利だからだ。ECBの初代人事では、オランダ人のドーダンベルク総裁を任期途中で無理やり辞任させ、トリシェ仏中央銀行総裁をねじ込んだ。

 今回も、ドイツのメルケル首相の側近であるフォンデアライエンの就任と交換条件で、マクロンがラガルド就任をメルケルに納得させたといわれる。

 ラガルドはIMFのトップとして度々、(不安定気味の)ユーロを批判しているので、「EUにとって大災害」(EU懐疑派の英紙「ディリー・テレグラフ」)との指摘もあるが、経歴的には満点だ。米商業弁護士事務所の最大手「ベーカー・マッケンジー事務所」で活躍。シラク大統領(当時)に見込まれ、2005~2007年に農水相。次いで、サルコジ大統領時代に経済相に就任(2007~2011)。当時は主要国首脳会議(G7)参加国中、唯一の女性経済閣僚だった。米誌「フォービス」が、2007年「世界で最も権力のある女性」の12位に選出もした。

 前IMF専務理事ストロスカーンがワシントンでのレイプ事件で急遽辞任。「またフランス出身」との米国などの批判をよそに後任に。2016年には満場一致で再任された。仏実業家タピと仏大手銀行クレディ・リヨネの係争事件で、管轄の経済相時代の責任を問われ、閣僚を裁く共和国裁判所の取り調べが開始される中、「IMFの仕事ぶりには大満足」の声が圧倒的だったからだ。今夏、タピに無罪判決が出たので、ラガルドも事件から解放される見込みだ。

 15歳の時、全国水泳大会で銀メダルを獲得した健康美。56歳の働き盛りにユーロの舵取りへの期待がかかる。任期は8年。再婚の夫は実業家。最初の夫との間に息子が2人。

◇初出=『ふらんす』2019年9月号

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著者略歴

  1. 山口昌子(やまぐち・しょうこ)

    産經新聞前パリ支局長。著書『フランス流テロとの戦い方』『パリの福澤諭吉』

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