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「アクチュアリテ 政治」山口昌子

2017年12月号 前仏文化相、ユネスコ事務局長に当選

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の新事務局長にダーク・ホースだったオードレ・アズレ前仏文化相が選出された。フランスが国を挙げて応援したほか、最有力候補だったカタールのカワリ元文化相に対し「反人種差別者」とアラブ勢が結束した結果の逆転勝利だった。

 ユネスコの事務局長選は、ブルガリアのイリナ・ボコヴァ氏の2期8年の任期満了に伴い10月に実施。執行委員会を組織する58名の投票により、過半数を獲得した者が当選する仕組みだ。アズレ氏30票、カワリ氏28票の接戦だった。

 アズレ氏(45)はオランド前政権時代の文化相(2016年2月- 翌年5月)だが、文化相就任もサプライズだった。政治経験ゼロ、一般的にはまったく無名の存在だったからだ。文化省のメディア部門を経て、2006年に国立映画センター(CNC)に入所。副所長(2011-2014年)、そしてオランド前大統領の文化・広報担当顧問から文化相に。オランド氏の密会相手の女優ジュリー・ガイエの友人だったので、「コネ入閣」などと囁かれたが、業界では「優秀で情熱的な人物」(ブルダンCNC所長)と評価は高かった。

 パリ政治学院、国立行政学院(ENA)出身。英ランカスター大学にも留学したフランスの典型的エリートだ。モロッコ系フランス人で父親は銀行家でモロッコ国王モハメド6世の顧問。祖父も前国王ハッサン2世の顧問と国王に近い名家だ。

 選挙では苦戦した。1年前から選挙運動を開始したカワリ氏らに比べると今年3月と立候補が遅れたうえ、ミッテラン大統領時代の大物文化相でアラブ世界研究所のジャック・ラング所長が当初、「場所[ユネスコの本部はパリ]もトップもフランスで占領するのはよくない」などと反対した。

 9人が立候補した1回目投票ではカワリ氏が19票でトップ。アズレ氏は13票、エジプトの外交官出身のハタブ氏が11票。2回目がアズレ氏とカワリ氏が18票、ハタブ氏13票。アズレ氏が逆転勝利したのは、「人種差別のカタール出身者には勝利させたくない」というエジプト支持票がアズレ氏に流れた結果だ。

 マクロン大統領が5月の伊シチリア島での主要国首脳会議(G7)や9月の米ニューヨークでの国連総会に彼女を同行させて各国代表に紹介するなど、国を挙げて応援したことも勝利につながった。

 就任後は米国とイスラエルの脱退問題など難問が控えている。両国はユネスコがヨルダン川西岸パレスチナ自治区の「ヘブロン旧市街」を世界遺産に登録したことで、「反イスラエル的」と猛反発、2018年からのユネスコ脱退を宣言しているからだ。再度のサプライズなるか。

◇初出=『ふらんす』2017年12月号

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著者略歴

  1. 山口昌子(やまぐち・しょうこ)

    産經新聞前パリ支局長。著書『フランス流テロとの戦い方』『パリの福澤諭吉』

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