パリは緑の都市に変貌?
「パリをもっと緑の多い都市にする」との野心的な計画を発表したのは市町村選挙(比例制、2回投票=3月15日、22日)で再選を狙ったパリ市長のアンヌ・イダルゴ(60、社会党)だ。今年1月の出馬表明で公約した。
パリ市内はイダルゴの前任者、ベルナール・ドラノエのパリ市長時代から、自動車の排気ガス削減を狙って、自転車専用路が増えつつあったが、それを助けたのが助役時代のイダルゴだ。2014年に市長に当選するや、シャンゼリゼ大通りをはじめ主要道路に自転車専用道路を設置し、パリ市を排気ガスから防護する政策を積極的に進展させた。パリ公共交通公団(RATP)経営の市内バスのハイブリット化も急速に進んだ。
イダルゴは公約で、パリ市内の排気ガス規制をさらに進めて、車をパリ市内から完全に追放し、「100パーセント自転車天国」にする構想も明らかにした。いったい、実現可能なのか否か。市内の車が通行禁止となれば、当然ながら、パリ市を取り巻く郊外都市も含めた「大パリ」からの車追放となる。周辺の高速道路を走行する車をどうするかなど課題は多い。
一方で緑地化計画も公約した。手はじめに、パリ市庁舎前の広場とオペラ・ガルニエ座(旧オペラ座)の後方の広場を「都市の森」と命名して様々な樹木を植樹する。他の大都市リヨンやマルセイユなどの駅前広場にも「都市の森」の設営を呼びかける。パリ市内の12区と15区に新たに公園もつくる。15区の場合は、現在へリポートとして使用されている広大な土地を利用し、ベルシー多目的競技場などがある新開発都市の12区の公園は、隣接するヴァンセンヌの森につなげる構想だ。
イダルゴは「パリの緑地化」の公約を強調するために、選挙戦のポスターも緑色が基調だった。社会党候補の場合、従来は党のシンボルマーク、バラの花を象徴する赤が使用されたが、今回はバラの花も赤色もなし。パリ市議会は社会党とパリ環境グループが与党の主力だが、「社会党はどこに行った。どこで左派を見ることができるのか」(ベルナール・クシュネル元外相、人道団体「国境なき医師団」の共同創設者)と嘆かれるように、昨今の社会党の衰退ぶりは激しい。イダルゴも選挙戦では環境グループに軸足を移した格好だ。
しかし、緑地化計画には莫大な予算が必要だ。右派らのライバル候補がそろってやり玉に挙げたのが、イダルゴの「パリ緑地化計画」だったが、その結果は?
本誌刷新に伴い、「政治」欄を卒業します。長らくお読みいただき、ありがとうございました。
◇初出=『ふらんす』2020年3月号