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「アクチュアリテ 政治」山口昌子

ユロ辞任後の環境政策は崩壊する?

 マクロン政権の目玉閣僚だったニコラ・ユロ環境移行連帯相のバカンス明けの突然の辞任は、支持率低下の政権を直撃する形になった。フィリップ首相はフェイスブックに「文明の崩壊の真の可能性を引き起こす」と書き、辞任を嘆いた。「文明の崩壊」とはちょっと大げさだが、ユロがお飾り的大臣でなかった証拠だ。

 ユロが「自分自身に噓をつきたくない」と言って8月末にニュース専門ラジオの生放送で辞任を表明した直接の引き金は、その前夜のエリゼ宮(大統領府)での大統領と「狩猟の会」との会合だった。ユロは動物愛護、環境保護の立場から狩猟に反対だが、大統領は「狩猟」の免許証の価格を400ユーロ(約5万2000円)から200ユーロへの引き下げに同意したほか、ユロには事前に知らせがなかった同会のロビストが同席していたからだ。メンツ丸つぶれのユロは顔面蒼白になったと伝えられる。

 ユロの就任前の肩書は「環境活動家」。テレビの人気環境ルポ番組「ウシュワイヤ」(1988-2012)の出演者かつ製作者として、それまで関心が比較的薄かった環境問題の重要性を訴えた。シラク、サルコジ、オランドの3 人の左右の党派を超えた歴代大統領から入閣を要請されながら固辞してきたが、マクロン大統領の「左右の党派にとらわれない政治」に共鳴しての入閣だった。

 在任中の最大の功績はパリ近郊ノートルダム・デ・ランドの空港計画の撤廃だ。新空港建設の必要性などが十分に検討されないままオランド政権時代に建設が決まったが、ユロの決断で1000ヘクタールの広大な土地が人工化から守られた。この決断は周辺の農民や住民はもとより、国民の過半数以上から支持された。最古のフェッサンエイムの原発も石炭火力発電所と同時に4年以内の閉鎖を決めた。4年間で6億ユーロ(約780億円)かけて12品目の使い捨てプラスチック製品の禁止を含む90の措置や、給食施設におけるオーガニックまたは地元産の食材使用率の50 パーセント引き上げや、太陽熱プランの拡大なども決めた。

 マクロン大統領は「彼の決意を尊重する。15か月前に彼を選んだのは自由な人間だからだ」と辞任に理解を示し、「常に彼の参加を当てにしている」とも述べ、今後も環境政策でユロの意見を尊重する方針を示した。

 ユロの後任には国民議会議長のフランソワ・ド・リュジが就任した。国民議会でヨーロッパエコロジー・緑の党の共同代表を2度務めた環境派だ。環境問題は今後、社会安保や再分配の問題とともに、ますます重要な政治課題になる。手腕を期待したいところだ。

◇初出=『ふらんす』2018年11月号

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著者略歴

  1. 山口昌子(やまぐち・しょうこ)

    産經新聞前パリ支局長。著書『フランス流テロとの戦い方』『パリの福澤諭吉』

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