いま最も注目の政治家ヤニック・ジャド
先の欧州議会選挙(比例制、751議席)で突如、知名度が急上昇したのがヨーロッパエコロジー・緑の党(EELV = Europe Écologie - Les Verts)の事務局長(党首)ヤニック・ジャド(52)だ。大方の予想通り、選挙結果は極右政党・国民連合(RN = Rassemblement National) が得票率23.3%で22.4%の与党・共和国前進(REM = La République En Marche !)と中道右派・民主党(MoDem = Mouvement Démocrate)の連合体を破って勝利したが、予想外がEELVの3位、13.5%だ。
しかも、イル・ド・フランス地方(パリ及び周辺7県)では共和国前進-民主党が得票率27.25%でトップ、EELVは国民連合の14.11%を抜いて15.88%の2位だった。パリ市内ではEELVはさらに得票率を伸ばし、19.89%と20%に迫る勢い。1位は共和国前進-民主党の32.92%、3位が伝統的な右派政党・共和党(LR = Les Républicains) の10.19%、4位が社会党の8.16%、国民連合は5位の7.22%だ。パリなど大都市では「反欧州、反移民(人種差別)」の国民連合が嫌われたからだ。
ジャドはこれまで、環境政党ウォッチャーには知られた存在だったが、今や、2022年の次期大統領選の「有力大統領候補」の呼び声がかかるほどだ。実は前回の2017年の大統領選でも立候補したが、「勝ち目なし」で候補を取り下げ、EELVの支持票を効果的に生かそうと、社会党の公認候補ブノワ・アモンを支援した。アモンが惨敗後、左派色を強めた新党を結成したので、袂を分かった。
若い頃は、かなりの過激派。学生運動で鳴らし、86年の大学改革法案審議時には反対デモの先頭に立った。パリ大学経済学部卒業後、いくつかのNGOで働き、バングラデシュなどの最貧国で奉仕活動を行った。
フランス・グリーンピースのトップとしても活躍(2002 ~ 08)。仏海軍の原子力潜水艦の寄港基地に侵入して物議を醸した。原発反対運動では原発の親会社、仏電力公社から徹底マークされたが、同社の監視員が反対に、ジャドへの一種のスパイ活動で有罪判決を受けた。
99年に緑の党(10年にEELVに発展的解消)に所属。09年に欧州議員に初当選、14年に再選。「子どもの頃から一貫して緑の党。サンテチエンヌ(仏中部のサッカーチームでユニフォームが緑色)の熱狂的ファンだからね」と笑わせるなど、ガチガチの闘士でないところが魅力か。同居人はテレビ記者。“勝利宣言” の夜、仲良く手をつないでいる姿がメディアに出回り、公けになった。
目下の狙いは20年の市町村議会選挙での勝利だが、最終目標はもちろん、大統領選だ。
◇初出=『ふらんす』2019年8月号