2017年10月号 観光は国家の専管事業
観光は国家の専管事業
「観光は国家の宝」と言明したのはエドゥアール・フィリップ仏首相だ。8 月に国立統計経済研究所(INSEE)が、2017 年末でフランスへの観光客数が8900 万人(仏人口は約6500 万)、2020年には1 億人、観光収入は500 憶ユーロ(約6 兆円)、雇用戧出数30 万人に達すると発表したのを受けての発言だ。
フランスでは観光は国家財政に直結する最優先事項なので、逆説的なことに観光相は置かずに、マクロン政権では首相が直接担当している。オランド前政権ではローラン・ファビウス元首相やジャン= マルク・エロ元首相が外務・国際開発相として担当。未明に大量に到着する中国の観光客を迎えるために、大臣自らパリ郊外シャルル・ドゴール国際空港に馳せ参じたこともあった。
フィリップ首相は8 月末には、政府が一体となって観光に取り組むために外務、内務、運輸、経済、文化相らによる政府間会議を頻繁に開催することも宣言。これまで査証(ビザ)の発券手続きに長時間を要したアジアなどの10 か国に対し、「48 時間」で発券するなど司法的緩和も決めた。
フランスを訪問する観光客数は、米国の約7570 万人、スペインの7560 万人を抜いてダントツ1 位の約8260 万(2016年度)だ。にもかかわらず、努力を怠らないのは、2015 年1 月のシャルリ・エブド襲撃事件や同年11 月のパリ同時多発テロ事件以来、観光客数が減少傾向にあるからだ。特に買い物などで多額を落としてくれる日本人観光客の数は、一時は40 パーセント減に達した。
2016 年度は大量のサポーターがサッカーの欧州選手権(EURO)の開催国フランスに押し寄せたので、回復の兆しが見えたが、7 月の南仏ニースの「トラック爆走テロ事件」が発生して逆戻り。米国の有名女性タレントがパリの高級ホテルで多額の装飾品を強奪された事件も、米国やアラブ諸国などの富裕層を敬遠させる結果になった。
2017 年に入ってからは、新規や改装を終えたパリの豪華ホテルが次々とオープンしたこともあり、第2 四半期は昨年同時期比で10.2 パーセント増だ。コンコルド広場にある超高級ホテル、クリヨンは内装をシャネルの主任デザイナー、カール・ラガーフェルドが担当して話題を呼んだ。ヴァンドーム広場のリッツも長年の工事を終えて再開した。2019 年にはオペラ座近くの大手デパート、ギャラリー・ラファイエットがシャンゼリゼ大通りに新店舗を開く。2024 年のパリ夏季五輪開催も決定し、パリは観光ブームに沸きそうだが、テロの心配はないのか。政府はあの手この手の対策を考慮中とか。
◇初出=『ふらんす』2017年10月号