2018年6月号 存在感示すエドゥアール・フィリップ首相
「我々が最後までやり抜くことを知るべきだ」。政府が発表した仏国有鉄道(SNCF)の民営化に反対する労組に対し、エドゥアール・フィリップ首相(47)はこう述べ、覚悟のほどを示した。「4月から6月まで5日ごとに2日間、計36日」という異例の長期ストは、4月の復活祭の休暇や6月の大学入学資格試験(バカロレア)と重なるため、国民が人質に取られた格好だが、首相は一歩も譲る気がないことを強調した。
昨春の就任以来約1年。華々しく登場したマクロン大統領(40)の影に隠れ、存在感が薄かった首相だが、メディアに登場する機会も増えた。化学兵器使用容疑のシリアへの攻撃に関しても、一部野党の批判に対し、「十二分に正当化できる」と国民議会で断言し、与党から拍手喝采を浴びた。
特徴の濃い顎髭は、グリム童話に登場する「青髭」みたいで、就任当初は評判が悪かったが、今や真似をする男性も増加中。トレードマークのカフス・ボタンも、そのうち、流行するかもしれない。
パリ政治学院と高級官僚養成所の国立行政学院(ENA)出身の典型的なエリートで、社会党右派の故ミシェル・ロカールに傾倒して一時、社会党入りしたところまでは大統領と一緒だ。その後、大統領がロッシルド商業銀行に入行し、たちまちNo.2の座に昇ったのに対し、2002年の政界入り後は目立たない存在だった。若手の優秀な人材を探していたジュペ元首相に誘われて、保守本道ドゴール派と中道右派の大連合政党、国民運動連合(UMP、共和党=LRの前身)誕生に際しての入党だったが、ジュペが17年の大統領選でUMPの予備選候補者としてフィヨン元首相に敗れるまで、側近として影の役割に徹した。
ジュペが07年の総選挙で落選した後の一時期は、原子炉事業のアレバで広報を担当したため、「反環境派」、「原発支持派」とのレッテルもある。昨春の大統領選では早々にマクロンを支持し、LR在籍のまま首相に就任したが、昨年秋に正式に離党した。
支持率で最近、大統領を抜くこともある。過去にはドゴールとポンピドー、ジスカール=デスタンとシラク、サルコジとフィヨン、オランドとヴァルスと政権末期には首相が大統領を裏切るケースが常套化している。シラクの場合は因果応報で、「30年来の友」のバラデュール元首相に裏切られている。マクロン政権の場合はどうなることか。
フランスは2つまで公職兼任が可能なので、12年からは仏北部の港湾都市ルアーヴルの市長だ。両親は教師。夫人もパリ政治学院で法律を教えている教育一家。三児の父。
◇初出=『ふらんす』2018年6月号