女性パリ市長の続投か?
2020年3月の市町村選挙を前に、「彼女で決まり」の観測が高まっているのが、パリ市長のアンヌ・イダルゴ(60、社会党)だ。スペイン生まれのハンディを乗り越えて、’14年の市町村選挙でパリ市長に選出されて以来、首都の環境改善に努めてきた。
両親もスペイン人。父親は左官、母親はお針子と決して恵まれた家庭環境ではない。2歳の時にフランスに移住、14歳でフランス国籍を取得した。現在は’03年にスペイン国籍を取り直したので二重国籍。リヨン大学とパリ・ナンテール大学で経済学を修め、24歳で難関の国家試験を突破して労働視察官の資格も取得した。ジュネーブの国際労働機関(ILO、’95 ~ ’96年)で働いたこともある。
政治家になるきっかけは、ジョスパン左派政府時代に、マルチーヌ・オブリ労働連帯相の官房に入り(’97 ~ ’02年)、仕事師オブリに感化されたから。官房時代に同僚と結婚、1児にも恵まれた。前同居人との間に2児ありの3児の母だ。
’01年の市町村選挙(比例代表制、2回投票)では、パリ15区から社会党のリストを率いて初出馬。1回目、2回目投票とも、トップの高得票率を獲得して当選した。ドラノエ社会党市長の下で、4人の助役の1人として活躍した。
’08年の市町村選挙では落選したが、ドラノエ市長の要望でパリ市の助役に留まり、都市計画問題に取り組んだ。
パリ市内は目下、ナポレオン3世時代(19世紀後半)の「パリ大改造」以来の大工事中だ。「パリ大改造」では、「破壊家」の異名を取ったオスマン男爵(パリを含むイル・ド・フランス知事)の号令の下、曲がりくねった狭い道路やその周辺のアパートなどが一掃され、広場を中心にした大通りと、高さが一定の建物が登場し、ほぼ現在のパリの整然とした街並みが出現した。
「イダルゴの大改造」ではバスチーユ広場など10か所で緑地帯などが誕生のほか、自転車専用道路がシャンゼリゼ大通りをはじめ、全大通りで建設中だ。その結果、渋滞や事故が増え、一部では不評だ。自転車やスケーター(目下大流行)愛用者が交通信号を無視する場合が多いからだ。市町村選挙では「大改造」が争点の1つに浮上し、政権党・共和国前進のバンジャマン・グリヴォー候補は「当選の暁には一部中止」を公約した。
イダルゴ市政への批判は他にもある。低額所得者用の住宅増設で、’14 ~ ’17年の累積赤字が約50億ユーロと巨額に達し、’18年には約60億ユーロに上る見込みだ。パリっ子がこうした現実をどう判断するか。
◇初出=『ふらんす』2020年1月号