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「アクチュアリテ 政治」山口昌子

家庭内暴力防止に電気ブレスレット:フランス

 フランスの国民議会(下院)でこのほど、家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンス=DV)の常習犯に電気ブレスレット(足環)の着用を義務付ける法案が、左右の党派を超えて満場一致で採択された。3日に1人の割合でDVによる死者が出るに及んで、もはや、「人権尊重」などのきれい事を言っている状況ではないからだ。

 フランスでは夫、あるいは同居人や元カレによるDVで、2017年度の死者は109人(仏内務省調べ)。この数字は女性の犠牲者だけで、子ども25人、男性16人の犠牲者数は含まれていない。2018年度の女性の死者は121人だ(同調べ)。性的暴力の被害者は約22万人に上る。

 こうした数字を前に、法案を提出したのは野党右派政党・共和党(LR)のオーレリアン・プラディエ議員。GPS(全地球測位システム)付きのブレスレットをDV常習犯らに装着して監視し、妻や元妻、あるいは同居人に近づいたら当局に警報連絡が行く仕組みだ。直ちに賛同したのが与党中道右派政党・共和国前進(REM)のニコル・ベルベ法相(女性)だ。電気ブレスレット1000個の製作費として560万ユーロ(1ユーロ=約121円、10月末現在)の緊急予算を計上し、2020年1月1日からの施行も決めた。さらにブレスレットの運営費として年間180万ユーロの予算も組んだ。

 野党議員に先を越された感のあるマルレーヌ・シアパ男女平等・差別対等担当相(女性)も、被害者用の“隠れ家”として、1000か所を提供した。

 家庭内暴力の問題はこの10数年来、歴代政府の頭を悩ましてきたが、「家庭内」という密室かつ私生活に関する微妙な問題なので、法的規制が遅滞していた。2010年に加害者が犠牲者に接近、接触を禁止する法律が成立したが、2018年度の同法の適用件数は3332件。実際の事件数に比較すると、極めて少ない。法律の適用が複雑かつ困難で、加害者がうまく、すり抜けてしまうケースが多いからだ。

 今年度のDV による死者はすでに117人(10月末現在)に上る。プラディエ議員が与野党議員を説得できた最大理由は、犠牲者数に歯止めがかからない現実に加えて、スペインの具体例もあるからだ。同国では2009年から電気ブレスレット導入の結果、2003年に71人の死者数が2018年には47人に減少した。

 日本では犠牲者の転居先を加害者に教えるなどの信じられないケースがあるが、こういう「うっかりミス」への罰則も含めて、政府はDV対策に本腰を入れて取り組んでほしい。

◇初出=『ふらんす』2019年12月号

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著者略歴

  1. 山口昌子(やまぐち・しょうこ)

    産經新聞前パリ支局長。著書『フランス流テロとの戦い方』『パリの福澤諭吉』

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