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「アクチュアリテ 政治」山口昌子

天才数学者がパリ市長になる確率は?

 来年3月中旬の市町村選挙(比例代表制、2回投票、市長は市議会議員の互選)で、パリ市に天才数学者の市長が誕生する可能性がなくもない。

 パリ市長選では目下、アンヌ・イダルゴ現市長(60、社会党)、バンジャマン・グリヴォー前政府報道官(42、共和国前進La République en marche =LREM)、セドリック・ヴィラニ国民議会議員(46、LREM)が有力候補者だ。共和国前進LREM の公認候補者にはグリヴォーが決まったので、ヴィラニは出馬を取り止めるとみられていたが、9月中旬に、「私はパリ市長選に立候補する」と、堂々宣言した。

 おかっぱ頭に鮮やかなグリーンやボルドー色の幅広リボンのネクタイ、背広の胸には蜘蛛のブローチという、“小公子”のようなヴィラニの姿が初めて聴衆の目を引いたのは、2017年の大統領選でのマクロン支持集会の時だ。マクロンと並んで壇上に登場することも度々あった。

 左右の既成政党の壁を破って、突然変異的に当選したマクロンを支えたのは、多数の政治素人だったが、その代表的人物が、この知る人ぞ知る天才数学者だ。子どもの時から神童の誉れ高く、難関中の難関の高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリウール)に入学。2010年には数学界のノーベル賞、フィールズ賞を受賞した。40歳以下の若い数学者の優れた業績を顕彰し、その後の研究を励ます同賞は、日本人の広中平祐や小平邦彦らも受賞している。

 同賞の受賞前から、母国で教鞭を取ったほか、米国やカナダなどの大学からも招聘されて教授を務めたが、同賞受賞をきっかけに、中・高校生などを相手に、講演などを通して「数学の魅力」を説くボランティア活動を開始した。世の中に多い「数学苦手」、「数学嫌い」を「数学好き」にさせようという遠大な試みだ。隠されていた政治家としての素質が目覚めたのかもしれない。

 パリ市長選出馬の動機は、パリ市を排気ガスなどの公害から擁護し、「グリーン都市」に変貌させるという、これまた壮大な野望に挑戦するためだ。 ただ、先のテレビ・インタビューで、パリ市の難問「住宅費の高騰問題」の解決策を聞かれて、返答に窮する場面もあり、政治家としての未熟さも露呈した。最近の世論調査の支持率は、イダルゴ24%、グリヴォー17%、ヴィラニ15%だ。単純計算でグリヴォーとヴィラニの支持率を合計すれば、イダルゴに勝利できるが、来春までには、これらの数字がどう変動するか。天才数学者が自身の勝率に関して、どんな計算をしているのか。夫人は生理学者、2児の父。

◇初出=『ふらんす』2019年11月号

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著者略歴

  1. 山口昌子(やまぐち・しょうこ)

    産經新聞前パリ支局長。著書『フランス流テロとの戦い方』『パリの福澤諭吉』

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