サマータイムの是非
フランスは、10月最終日曜日の28日にサマータイムが終わり、翌年3月最終日曜日まで冬時間が続く。日本との時差は夏時間の7時間から8時間になったが、4月以降もこのまま時差が8時間となる可能性がある。昨年8 月に欧州連合(EU)の行政機関、欧州委員会が欧州市民460万人─つまり27加盟国の全人口約4億5000万人の約1パーセント─にアンケート調査をした結果、その84パーセントがサマータイム廃止に賛成したからだ。
日本では自民党が2020年の東京夏季オリンピック・パラリンピックに向けたサマータイム導入の断念を発表。今後、五輪にこだわらず、サマータイム導入の是非を検討することになった。一方、仏独などEU 加盟国は各国、3月の時点でサマータイムにせずに冬時間を続行するか、夏時間に戻してから、10月の段階で冬時間に戻さず夏時間を続行するかを決める。いったん決めたら、その後の変更は許されない。
サマータイム廃止の提案はこの数年、メリットの少ない欧州北部のスウェーデンやリトアニアなどから出されていたが、フランスでは、これまでサマータイム廃止の是非が主要議論になったことはない。今年の3月に向けて初めて論議を呼ぶ可能性がありそうだ。
フランスのサマータイムの歴史は長い。石油ショックで省エネが叫ばれた1976年に導入して以来すでに40 年以上経つので、もはや日常生活の一部になっている。夏・冬時間の変更直後は「子どもの寝つきが悪い」「朝起きられない」などの健康上、生理上の問題はあっても、時差同様に1 週間も経てば慣れてしまうからだ。テレビやパソコン、スマートフォンなどの時計表示も自動的に変わる仕組みになっている。
「農業大国フランス」では、農民人口が過半数を超えた19世紀末には、地方の一部でサマータイムが実施されていた。名画ミレーの《晩鐘》が示すように、農民は夜明けと共に働き、夕暮れと共に祈りを捧げて、家路についたからだ。長い日照時間の夏季は長く働き、冬はゆっくりと休養に当てた。列車の普及に伴い、地方毎に時刻が異なると時刻表作成に支障をきたすとあって廃止になった。
欧州委員会の調査では、「夏時間を選ぶ」が54パーセントと過半数を越えた。フランスなど緯度の高い国の場合、冬時間だと夏至の頃は4時半過ぎには明るくなり、おちおち寝ていられない。
今回の欧州のサマータイム廃止は、「全てをEU が決める」の好例となるか悪例となるか。3月には欧州議会議員選挙が実施される。サマータイム廃止の影響はいかに……。
◇初出=『ふらんす』2019年1月号