マクロン、大討論会で復活か
支持率低下のマクロン大統領が、新年から浮上の兆しを見せている。「黄色いベスト」対策として開始した「大討論」によって国民との直接対話という新しい政治スタイルの形を示すと同時に、「闘う大統領」(閣僚の1人)という本来の姿を取り戻したからだ。
昨年11月に開始した土曜日ごとの「黄色いベスト」のデモは、クリスマス休暇を挟んで新年になっても続行。「コケが岩に張り付くようにデモは消滅しない」(代表の1人)と意気軒昂だ。参加人数は減ったが、過激度は増大中である。
大統領は新年早々に、仏全所帯に書簡を送り、「黄色いベスト」が特に批判している高速道路の時速80キロ制限はもとより、富裕税(ISF)の優遇措置や高率な付加価値税(TVA)を含む税制問題など、身近な問題から民主主義、国家の在り方など形而上学的問題まで、「タブーなし」の討論を呼び掛けた。
具体的には主要県ごとに市長との集会を開き、討論を闘わすが、大統領はむしろ「聞き役」に徹する趣向だ。第1回は1月15日に仏北部ノルマンディー地方リューロ県の約400人の市長と大討論会を開催した。市長たちは三色旗のたすき掛けという“ 正装” で出席し、聞き役のはずの大統領もワイシャツ姿になって丁々発止の議論を展開。議論好きの国民とあって、深夜まで約5時間に及んだ討論の最後は、大統領へのスタンディングオベーションが起こり、さながら大統領選のマクロン支持集会のようだった。
3月15日まで毎週約1回のペースで開催され、大統領は文字通り仏全土を東奔西走。議論結果をまとめて、政策の見直しなどを行う。
「黄色いベスト」のきっかけの1つだった高速道路の時速80キロ制限に関しては、すでに、「譲歩の余地」を示した。討論会場の市庁舎などに向かう途中で、市民と直接対話し、「老齢年金」の計算を老夫婦と一緒に試算するなど、大統領選で見せた「若くてやる気満々」の姿を再現させた。
ただ、「大討論」開始直後の世論調査では、「大討論で危機を脱出できる」が34パーセントと低く、効果を疑問視する声も多い。「弱者に餌を投げ与えるような方法」(野党社会党のオリビエ・フォル第一書記)と、大統領の高圧的な態度への批判も根強い。
「黄色いベスト」も、大統領の行く先々で小規模だがデモを組織し、警官隊との小競り合いを展開した。ただ、「黄色いベスト」の「マクロン辞任!」の掛け声は現実味が消え、大統領はよほどのことがない限り22年5月までの任期全うが確実視されている。
◇初出=『ふらんす』2019年3月号