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「アクチュアリテ 政治」山口昌子

スト大国フランス

 フランスでは年末行事よろしく、昨年は12月5日から公共交通網のストが展開した。共産党系の最大労組・労働総同盟(CGT)は、「クリスマス休暇なし」と威勢がよかった。ストの目的はマクロン政権の目玉政策の1つ、年金制度改革に対する反対だ。とくに国有鉄道や地下鉄の従業員らが、従来通り、「特別制度」の枠組みで、50代で定年退職したいというのが、彼らの主張だ。

 日本と異なり、フランスの場合、年金制度はかなり整備されている。現行の定年は原則62歳。定年まで約42年間働き、年金の負担金をきちんと支払った場合、最高時の給料の約8割の年金が支給される。年金だけでは大半が暮せない日本とは異なり、第2の職場を探さずに、悠々自適の生活が保障されている。

 しかし、いずこも同じ少子高齢化の影響で、フランスも改革を余儀なくされている。1995年にも年金制度改革が試みられたが、年末の約1か月の長期ストであえなく潰(つい)えた。フィリップ首相は当時のジュペ首相の愛弟子だが、師匠の失敗を糧に善後策を模索した。

 当初は63、4歳に延長予定だった定年を2027年までは62歳に据え置き、以後、64歳に延長すると軌道修正したが、国鉄や地下鉄従業員に対する「特別制度」の枠組みを外す方針は貫き、年金制度の一本化は堅持した。

 この改革案に終始一貫反対しているのが、「特別制度」によって定年が50代で認められている国鉄や地下鉄の従業員だ。国鉄の運転手の場合、かつては石炭が動力だったので重労働だった。地下鉄従業員は太陽が拝めないという点で炭鉱夫と同列だった。しかし今日では、国鉄は電力が動力になり、地下鉄従業員は週35時間労働、有給休暇5週間によって、日光を十分に浴びることができる。が、彼らは種々の事情から現制度の恩典保持を叫んでいる。この1年半、猛威を奮った非労組「黄色いベスト」への正統派労組としての対抗心もあろう。

 それにしても、フランス人はなぜ、かくもストやデモに熱心なのか。年末になると各種ストやデモが活発になるのは、革命の子の血が騒ぐからだろうか。

 1848年二月革命の目撃者かつ当事者の政治学者トクヴィルは次のように記述している。「人々はバリケードの最後の石を積んでいた。これらのバリケードは巧みに少人数で築かれ、その人々は大変小まめに働いていて、自分の仕事をすばやく立派に片づけようとする善良な労働者の姿を思わせるものがあった」

 ストもデモもフランス人にとっては年中行事の1つ、「移動祝祭日」といったところか。

◇初出=『ふらんす』2020年2月号

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著者略歴

  1. 山口昌子(やまぐち・しょうこ)

    産經新聞前パリ支局長。著書『フランス流テロとの戦い方』『パリの福澤諭吉』

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