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釣馨 + Ghislain MOUTON「Dessine-moi un mouton !」

第15回 ベルギービールとフリット

フレンチブルーム (以下FB):今月号ふらんす2016年6月号は「ベルギー特集」ということで、私たちもベルギーの話をしたいと思いますが、不幸なことに今年の3月、ベルギーの空港と地下鉄でテロが起こってしまいました。

ひつじ:普通の日本人はベルギーと言うとブリュージュのようなきれいな町や、チョコレートやワッフルを想像するんじゃないでしょうか。

FB:そこがテロの温床になっているなんて全然ピンとこない。

ひつじ:学生にベルギーのことを聞いても、「どこにあるかわかんない!」とか「ベルギーでもフランス語⁉」というコメントが返ってきます。また「僕の地元のリールから車で15分走ったらベルギーだよ!」と言うとびっくりしますね。

FB:ビールを例に挙げるとわかるように、北フランスとベルギーは文化的にも地続きなんですよね。ベルギーと言えば、9月にブリュッセルの中心にある大きな広場「グラン・プラスGrand-Place」(世界遺産でもあります!)でビール祭りが行われます。ひつじさんはワインを日本で始めて飲んだという生粋のビール派ですよね(笑)。私もビール派で、ホワイトビールやフルーツビールなど、いろんなベルギーのビールを飲み比べるのが好きです。

ひつじ:ベルギーは地ビールの醸造所の数も、地ビールの種類も多いので、専門店で買い物すると選びきれなくていつも時間がかかります。ちなみに国境にある専門店でデュヴェルDuvelやシメイChimayを買うと、1本1ユーロ以下です。最近日本のコンビニでもデュベルが買えるようになりましたが、500円近くします。「地元だったら、この値段で5本買えるわ!」と思いながら、結局コンビニでも買っちゃうけどね!

FB:あと、バケツにいっぱいのムール貝も食べたくなります。シェ・レオンChez Léonというブリュッセル発のチェーン店がフランスにもたくさんありますね。そしてムール貝には山盛りのフリットが付いてきます。

ひつじ:そう、les frites !! の話もせざるを得ないです。北フランスで食べるフリットも、ジャガイモと油の種類にもこだわっていて本当に美味しいんですよ!映画Bienvenue chez les Ch’tisでも紹介されている屋台Baraque à fritesでフリットを買い、持ち帰って家族で食べる習慣もあります。僕も子供のときに毎月おじいちゃん、おばあちゃんのところに集まって、従妹たちと一緒に屋台のフリットを食べるのを楽しみにしていましたね。

FB:馬の油で揚げるフリットも美味しいんですよね。

ひつじ:でも、僕にとってはおばあちゃんの作るフリットが断然美味しいです! 自分の畑でとれたジャガイモを、ニンニクとエシャロットがたっぷり入った油で2度揚げするんです。帰省するたびに食べたくなって、いまだにおばあちゃんにお願いしています!

FB:ベルギーとつながっている料理に他にどんなものがありますか?

ひつじ:ワインの生産地として有名なブルゴーニュ地方の代表的な料理、ブッフ・ブルギニョンBoeuf bourguignonは当地の赤ワインを使った煮込みの料理になっていますね。北フランスではワインが作れないので、煮込み料理の多くは「ビール煮込み」です。最も有名なのはカルボナードCarbonnade Flamandeです。こだわりたければシメイで牛肉(鶏や豚でもOK)を煮込むと美味しいです。僕の地元ではビールの値段はお水の値段と変わらないので(言い過ぎ!)、安く作れるのですが、日本でシメイを使うと高級料理になってしまいます(笑)。

FB:ところで、フランス人から見るとベルギーの人たちはどんな印象なんですか?

ひつじ:フランス人が好む、偏見たっぷりの「ベルギー人の変な話 histoires drôles belges」があります。フランス人はベルギー人のフランス語のアクセントなどを馬鹿にして、ゲラゲラ笑うのをベルギー人が見て腹が立つのも分かりますね。一方フランス人に対しては「おしゃべりで高慢grande gueule et trop fier」という印象を持っているベルギー人が多いです。

FB:ベルギー人の話すフランス語はワロン語とも言われ、ベルギーの南部の地域で話されます。一方、北部のフランドル地方の言語はオランダ語系です。

ひつじ:以前取り上げた映画『スパニッシュ・アパートメント』にも、ベルギーのワロン地方出身のイザベルが「フランドル地方に行くときは、フランス人のふりをする。Quand je vais en Flandre, je me fais passer pour une française.」という台詞がありました。地政学的にもベルギーは独特な位置にありますね。

FB:アルプスを越えて北上したゲルマン系の文化と、地中海沿いのラテン系の文化がヨーロッパの北部で再び出会った潮目になっています。ベルギーはカトリックの国ですが、プロテスタントの国のオランダと接し、4分の1がプロテスタントです。そういう境界的な地域には、今回のテロの温床になった大きなムスリム居住区のような、言語的マイノリティの共同体が生まれやすいと言えます。また言語や文化の分断はなわばり意識を生み、セキュリティ体制も脆弱になりやすいのでしょう。

◇初出=『ふらんす』2016年6月号

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著者略歴

  1. 釣馨(つり・かおる)

    神戸大学他非常勤講師。仏文学・比較文学。FRENCH BLOOM NET 主宰。

  2. Ghislain MOUTON(ジスラン・ムートン)

    琉球大学非常勤講師、ひつじフランス語教室代表。

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