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釣馨 + Ghislain MOUTON「Dessine-moi un mouton !」

第24回(最終回) フランス人と冷凍食品

フレンチブルーム(以下FB):ひつじさん、ラジオに続きテレビにも出演なさったそうですね。

ひつじ:そうなんです。沖縄のローカル番組なんですが、ガレッジセールのゴリさんと激論を交わしました。

FB:着実に活躍の場を広げているムートンさんですが、今回のお題は冷凍食品です。去年の11月に冷凍食品専門スーパー「Picardピカール」が日本に上陸して、テレビでも取り上げられていましたね。冷凍食品専門スーパーは日本には存在しなかった新業態で、イオングループによって運営されています。フランスと冷凍食品がなかなか結び付かない人も多いと思いますが。

ひつじ:まず、冷凍食品と切っても切れないのがフランスの一軒家の地下室caveの存在です。特に地方の一軒家には必ず地下室があります。地下室はそこそこ広くて、いろんなモノを保管できます。僕の実家だと10平方メートルぐらいありました。天上の高さは180センチメートルありましたが、僕も僕のお父さんも身長が188センチあったので、いつも頭を打ちながらモノを取りに行っていました。それでも便利な部屋でした。

FB: ムートン一家はみんな大きいんですね。地下室には具体的にどんなものが置かれているんですか?

ひつじ:缶詰、ワイン、ビール、ミネラルウォーター6本入りパック、牛乳6本入りパックなどです。

FB:フランスはロングライフ牛乳が主流なので、地下室に保存できるんですね。

ひつじ:地下室が収納場所として最適な理由のひとつは温度です。壁は煉瓦で覆われているので、湿気も高くありません。そして常にすずしいんです。ワイン好きの僕の伯父さんは自分の家を建てたときに、自分で地下を掘り、ワインセラーとしても理想的な地下室を作りました。日本と違ってフランスは地震の恐れがほどんどないため、自由に掘れるんですね!やっと冷凍食品の話にたどりつきますが、フランスの地下室には冷凍庫が置かれているんですね。業務用の大きいヤツね!そこに大量の野菜、レトルト食品、ピザ、パン、肉などを保管しています。

FB:フランスでよくパーティをしましたが、キッシュを作るのに冷凍パイシートを使ったのを思い出しました。あれが常備されていれば、簡単にキッシュやタルトが作れますね。去年、柳瀬久美子さんの『タルト・ソレイユとタルト・フルール』というレシピ集が話題になりましたが、あれは冷凍パイシートと大きなオーブンが普及しているフランスならではのレシピでしょう。

ひつじ:そうなんです。キーワードは「あまり手間をかけない」ということなんです。これも日本人の固定概念をひっくり返すようなことかもしれませんが、フランス人は家ではあまり料理しないのです! 僕の場合、親が共働きで、母は17時から18時の間に家に帰ってきて、ラビオリ raviolisの缶詰を開けたり、冷凍のインゲン豆やニンジンをポワレpoêlée de légumesにしたり、オーブンで冷凍のキノコとハムのブルトン風クレープ crêpes bretonnes aux champignons et au jambonを焼いたりしていましたよ。そうすると4人分の晩ご飯は30分もあればできますからね。

FB:フランスはヨーロッパの国々のなかでも女性就業率が高いことで知られていますが、冷凍食品や缶詰も女性が働く社会を支えているんですね。ちょっと手抜いても、美味しいものが食べられる。日本で缶詰や冷凍食品は、安い輸入食品や保存食のイメージが強く、私も安全性に問題がありそうなのでほとんど食べません。そんなに美味しくないし。

ひつじ:フランスの冷凍食品は、日本で言う「調理済みの総菜」のようなものかもしれませんね。

FB:なるほど。先ほど紹介したピカールの商品には、オーブンで焼く、フライパンで炒めるなど、ひと手間加えて仕上げるのが多いのも特徴のようです。これからの日本も共働きが増えそうなので、美味しい冷凍食品の需要は高まりそうですね。

ひつじ:凄いのは冷凍食品だけではありません。フランスは本当に缶詰天国だということを日本人はほとんど知らないと思います。日本在住のフランス人なら、フォワグラfoie gras、田舎風パテ pâté de campagne、テリーヌ terrine、リエット rillettes、カスレ cassouletなどを、毎年家族から送ってもらっているに違いありません! サイズにも驚くし、味も抜群においしいので、里帰りの際に、3キロもあるカスレの缶詰を何個かわざわざ自分のスーツケースに入れて日本に持って帰るフランス人が多いのも分かりますね!

FB:一方、ピカール開店の翌月に、フランス発のオーガニックスーパー「Bio c’Bonビオセボン」も開店しました。これにもイオンが関わっています。フランスでオーガニックは「ビオ」bio(biologiqueの略) と言いますが、フランスの有機食品には緑色の AB (Agriculture biologique)マークがついています。「ピカール」の冷凍食品と「ビオセボン」のオーガニックは日本の市場では未発達の分野で、大きなビジネスチャンスになるという目論見ですね。

ひつじ:カルフールのようにならないことを祈りましょう!

FB:ところで、今回が最終回です。2年間、ありがとうございました!

ひつじ:Ne vous en faites pas : la fin d'un évènement est toujours synonyme du commencement d'un autre !(心配しないでください。何かの終わりはいつも新しい何かの始まりを意味しますから!)またどこかでお会いしましょう!

◇初出=『ふらんす』2017年3月号

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著者略歴

  1. 釣馨(つり・かおる)

    神戸大学他非常勤講師。仏文学・比較文学。FRENCH BLOOM NET 主宰。

  2. Ghislain MOUTON(ジスラン・ムートン)

    琉球大学非常勤講師、ひつじフランス語教室代表。

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