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釣馨 + Ghislain MOUTON「Dessine-moi un mouton !」

第17回 音楽でフランス語を日常化する2

フレンチブルーム(以下FB):ひつじさん、学生に聴かせるおすすめの音楽ってありますか?

ひつじ:Clémentine がアニメソングのボサノバカバーをしている『アニメンティーヌ』なんか、学生は喜びますね。

FB:フランス語で歌われたアルバムとしては久しぶりの大ヒットでしたね。クレモンティーヌは90年代に渋谷系の文脈で注目され、以前は「日本でしか人気がない」と揶揄されていましたが、自分のポジションを自覚した戦略が功を奏してしますね。

ひつじ:それとみんなメロディを知っていることも重要です。『アニメンティーヌ』は、学生たちとイントロあてクイズになりますね。夏はボサノバが気持ちいいですね。ポルトガル語にも鼻母音があるし、フランス語もボサノバに合うんですよね。

FB:フレンチボサノバといえば、Isabelle Antena (曲はLe poisson des mers du sud)もいいですよ。バックの演奏がうるさくないし、声も軽やかなので、フランス語もクリアに聴き取れます。シャンソンの定番のボサノバカバー、Claire Chevalier の『ブラジル風に』もおすすめです。

ひつじ:ビートルズもフランス語で一曲歌ってますね。Michelle, ma belle...Michelle という恋人の名前と belle は韻を踏んでいて、とても似合っているという歌です。

FB:個人的にはどんなアーティストが好みですか?

ひつじ:Mylène FarmerのLibertineという曲が好きです。ミレーヌは80年代から活躍する息の長いアーティストですが、つねにオリジナルな曲を作っていて、独特なオーラと声は30年経っても色褪せませんね。

FB:最近のライブ映像を見ても、女神降臨という感じで、観客の熱狂ぶりはほとんど宗教ですね(笑)。ロシアや東欧でも大人気ですが、日本での人気はいまひとつです。

ひつじ:女性歌手ではPatricia Kassの声と雰囲気も好きですね。Mademoiselle chante le blues !

FB:私はVanessa Paradis を挙げておきましょう。90年代のレニー・クラヴィッツのプロデュース盤のポップセンスが抜群ですが、残念ながら英語です。もちろん、フランス語のいい曲もいくつかあって、少し前は、ジョニー・デップのパートナーなんだよ、と言うと女子学生たちが目の色変えてくれたんだけど、デップとも別れちゃったのも残念。

ひつじ:ところで、ラップとか聴きますか?

FB:MC Solaar が出てきたころ、彼のラップをまねてフランス語の滑舌をよくしていました。

ひつじ:私は高校生のころ、Bouge de làという曲が大好きでした。彼は当時の文化大臣に次世代のフランス語の担い手と絶賛されていましたね。

FB:ヒップホップ系と言えば、教科書にGrand Corps Malade が紹介されていたので、学生と一緒にJe viens de làのビデオクリップを見たのですが、こちらまで胸が熱くなりました。

ひつじ:“À chacun son territoire, à chacun sa France...”というやつですね。ラップは言葉が詰まっているし、ひっくり返し言葉(verlan)も多く、意味をとるのが難しいですね。でも歌は好きになるのが先です。気に入った曲が見つかれば意味が分からなくても、聴き続ければいいんですよね。音から入ることも大事です。

FB:私も何回も聴いているうちに、あっ、そういうことだったのかと、忽然と気がつく瞬間がよくありました。以前は興味を持った学生にCDを貸したりしていましたが、最近は、1曲ごとにネットで買えるので、手に入れやすいですよね。

ひつじ:iTunesストアで買って、自分の音楽ライブラリーに入れてもらえばしめたものです。授業という枠を超えて、フランス語を日常化してもらえます!

FB:授業中に聴いた中で、どの曲を買ったか聞いてみたら、Superbus という女性ボーカルのグループのLolaが一番人気でした。ビデオクリップもかっこいいんです。ネオアコ系のAutour de Lucie (曲はL’accord parfait)も人気がありますね。

ひつじ:若い世代は歌い上げるシャンソン系より、ロック系になじめるのかな。

FB:今はYouTubeで瞬時に検索できるので、学生たちは授業で聴いた曲が気に入れば、電車やバスの中でチェックしているようです。

ひつじ:YouTubeには歌詞を見ながら聴けるものもありますね。歌詞はparoles と言いますが、曲のタイトルと paroles を一緒に打ち込むといろいろ出てきますよ。paroles.net など、歌の歌詞を集めたサイトもあります。カラオケのように一緒に歌ってみましょう。

FB:最近は、カラオケにフランス語の曲のレパートリーも増えてきました。ひつじさんもカラオケによく行くそうですね。

ひつじ:フランス人の仲間たちと月に1回は行ってますね。

FB:アニメソングもよく歌うと聞きましたよ。「残酷な天使のテーゼ」を歌っているひつじさんって想像がつかないんですが(笑)。

ひつじ:いや~、日本にいるフランス人はオタクが多いですよ。

【便利なサイト】
Alain Le Lait さん。この方はêtre や avoir の活用、数字や曜日を覚えるオリジナルな曲と動画を作るという特異な才能を発揮。10万から100万単位のアクセスがあって、一種のユーチューバ―です。世界中の仏語学習者が聴いている感じで、メロディもいい。Twitterをやっている人は、@futsugopon さんの音楽紹介アカウントがおすすめです。French Bloom Net にもときどき投稿してもらっていて、フランスの音楽にとても詳しい方です。

◇初出=『ふらんす』2016年8月号

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著者略歴

  1. 釣馨(つり・かおる)

    神戸大学他非常勤講師。仏文学・比較文学。FRENCH BLOOM NET 主宰。

  2. Ghislain MOUTON(ジスラン・ムートン)

    琉球大学非常勤講師、ひつじフランス語教室代表。

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