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釣馨 + Ghislain MOUTON「Dessine-moi un mouton !」

第21回 フランス人がいちばん住みたい町、ボルドー

ひつじ:ところで、フランスの中でフランス人がいちばん住みたい町ってどこか知っていますか?

フレンチブルーム(以下FB):パリではなさそうですね。

ひつじ:2015年のフランスの国内調査で「フランス人の住みたい町ランキング」1位になったのは、ボルドーです。

FB:ワインがおいしいから、という理由だけじゃないですよね?

ひつじ:ワインもおいしいし、海にも山にも近く、食べ物もおいしいんですが、ある記事では「人間的なサイズのà taille humaine」町という言い方がされていました。適度な町の規模(人口約24万人)で、快適でエコロジックな町という理由です。トラムが颯爽と走り、レンタル自転車システムが稼働し、ヨーロッパで最も長い歩行者天国があります。

FB: 確かボルドー市長ってアラン・ジュペですよね。次期大統領候補としても名前があがっていますが、保守系の重鎮ですね。

ひつじ:少し前のボルドーは、それまで町を支えていた重工業が衰退する一方で車の数が増え、車の排気ガスで建物の壁が黒ずんでしまった町でした。彼が市長になって、中心街への車の乗り入れを禁じ、トラムを復活させたんです。

FB:私もボルドーのトラムにも乗ってみたいなあ! 子供にせがまれていろんな電車に乗ったおかげで、分がだいぶ上がりました(笑)。

ひつじ:たまたま去年のバカンスにボルドーに行ってきたのですが、トラムに乗ったとき、長い年月をかけて町の再建に取り組んだボルドーのすごさを実感しました。現在トラムはボルドーの主要な観光スポットを通っていて、トラムに乗っただけで本当に旅をしている気分になりました。故郷のリールには昔からトラムが走っているんですが、僕が15年前に乗っていたトラムは今のボルドーのに比べるとシャレにもならないですね! それでも、古くてタバコ臭いTER(仏国鉄のローカル線)よりは全然マシでした。

FB:トラムを導入しているのはボルドーだけではないですよね。今やフランスの30近くの地方都市でトラムが走っています。1994年のストラスブールの成功で、地方都市にトラムを導入する動きに拍車がかかり、2010年代に入っても続いています。ストラスブールは1989年の選挙で交通渋滞の解消にミニ地下鉄かトラムかを問い、コンセルタシオンという時間をかけた市民との対話によって合意形成が図られました。

ひつじ:フランスの地方都市を回って、個性的なトラムに乗るという旅も楽しそうですね。

FB:周囲の景観に溶け込みながら、滑るように動くトラムを眺めるだけでも、すでにうっとりする経験ですね。アップル製品で実感するように、今やアートやデザインの才能の多くはプロダクトデザインに注ぎ込まれていて、トラムの車体も例外ではないですね。

ひつじ:近未来的な最新のデザインにこだわるのは、トラムを復活させる際に、古臭いトラムのイメージを一新する必要があったからです。例えば、モンペリエを走るトラムの1号線は地中海をイメージした青に白いツバメが飛ぶデザインです。3号線はコンペによってクリスチャン・ラクロワのデザインが採用されています。景観と一体となったトータルデザインも大事で、ストラスブールは景観の整備にトラムを施設する総事業費の30パーセントを費やしました。

FB:新しいトラムの車両の窓は大きく、歩行者から車両の内部が良く見えます。低い床のトラムのシートに座る乗客も歩行者と同じ目の高さで街や歩行者を眺める。「見る人と見られる人の相互関係」がデザインされ、カフェテラスと同じような劇場的な効果を生むんですよね。「かっこいい町を歩くかっこいい自分を意識する」みたいな……。

ひつじ:それに低床車を導入することで、高齢者や障がい者も抵抗なく乗ることができます。つまり、トラムの床を低くデザインすることで、多様な属性を持った人々が乗り合わせるわけで、「社会にはいろんな人が生きているんだ」という共存感覚をはぐくむことができますね。自動車にしか乗っていなかったら味わえない感覚です

FB:倫理や道徳を声高に主張することは、成熟した社会を動かすにはあまり効果的ではないかもしませんね。むしろ人を動かし、ものの見方を変えていく仕組みを町の中にデザインしていくことが必要なのかもしれません。カッコよさに惹かれながら、新しい価値観を自分の中から引き出されるような。

ひつじ:話が変わりますが、地球温暖化対策を進める国際的な枠組み「パリ協定Accord de Paris sur le climat」が11月4日に発効することを国連が発表しました。温室効果ガスの2大排出国のアメリカと中国が締結に踏み切ったのが大きいですね。温暖化対策を主導してきたEU各国が締結を急いでいましたが、フランスはサルコジ政権の時代から「持続可能性 durabilité /soutenabilité」の方向に大きく舵を切っています。それがフランスの新しい顔になりつつありますね。そしてボルドーのような町が人気になる。

FB:「パリ協定」はこれからの経済活動を規定していく重要な枠組みです。FRENCH BLOOM NETでSNSを使ってフランスの最新ニュースを随時流していますが、読者に最も関心を持ってもらえるのは、この分野のニュースですね。最近では、イダルゴ・パリ市長の大胆な大気汚染対策、レジ袋の一斉廃止や使い捨てプラスチック食器の使用禁止などのニュースに注目が集まりました。最近のフランスは徹底的です!

◇初出=『ふらんす』2016年12月号

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著者略歴

  1. 釣馨(つり・かおる)

    神戸大学他非常勤講師。仏文学・比較文学。FRENCH BLOOM NET 主宰。

  2. Ghislain MOUTON(ジスラン・ムートン)

    琉球大学非常勤講師、ひつじフランス語教室代表。

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