第9回 地方都市の魅力を発見
フレンチブルーム 行ってきました。青森県の弘前市!
ひつじ 弘前で何があったんですか?
フレンチブルーム 9月に「弘前×フランス」週間という一連のイベントがあって、参加してきました。弘前と言えばもちろんリンゴなのですが、フランス北西部のノルマンディとリンゴを通じてつながっているんです。
ひつじ ノルマンティと言えば、日本人はモン・サン=ミッシェルなど海辺の景色を想起すると思いますが、リンゴの産地としても知られ、リンゴから作るお酒、シードル cidre やカルヴァドス calvadosが特産品です。カルヴァドスは私も食後によく飲みますよ。弘前ではどんなイベントがあったのですか?
フレンチブルーム ノルマンディには、シードルの生産拠点を結んだ「シードル街道」La route du cidre があるのですが、街道の町のカンブルメール Cambremerの観光局長さんを招いた講演会、弘前とノルマンディのリンゴ産業の将来を考えるトークセッション、また弘前大学の学生が運営し、地元のフランス関連のお店が出店するマルシェもありました。弘前の人たちにリンゴを通してフランスのことを知ってもらい、フランスをテーマにした町おこし的な活動に巻き込もうという試みです。ひつじさん、リンゴの木pommier の花を見たことがありますか。
ひつじ もちろんありますよ。リンゴの木は5月になると白い花をつけ、ちょうど日本の桜のように満開になります。
フレンチブルーム カンブルメールの観光局長さんは写真家でもあって、リンゴ農園やシードルのカーヴを撮った写真展もあったのですが、心奪われる美しい風景ばかりでした。ところで、ひつじさんの故郷のリールの特産品は何ですか?
ひつじ 何と言っても、ビールですね! 種類が多くて、注文の際、種類(色)を blonde(黄金色)、 blanche(白)、 brune(褐色)、ambrée(琥珀色)などから選び、そして25 cl, 33 cl, 50 cl とサイズを選びます。10種類以上の生ビールが選べる店が多いです。私もビールが大好きで「ビールの色と味の関係について」の講義ができるくらいですよ! 今年の夏のヴァカンスで初めてボルドーに行ったときも、思わずテラスで「ビールをください!」って頼んでしまいました。そしたら「え? ここはボルドーですよ!」と返されたのが印象的でした。「10種類以上のグラスワインの中から選べるのに、なぜビールを頼む必要があるんですか?」と。でもそこは意地を張って、メニューにあった唯一のビール、ハイネケンを頂きました(笑)。料理とのマリアージュmariage についても、北フランスではワインではなく、ビールが薦められますね。
フレンチブルーム リール人 lillois(e)の面目躍如ですね。ビールの国ベルギーもすぐ隣で、ビール文化圏に属するのでしょうか。ノルマンディもブドウの栽培に適さないので、リンゴが植えられたと聞きます。ノルマンディは酪農も盛んで、カマンベール Camembert も有名ですが、カマンベールにも同じ土地のシードルがよく合います。また先ほどの観光局長さんによると、またウォッシュタイプのリヴァロ Livarot には、カルヴァドスが最高のマリアージュになるそうです。
ひつじ 北フランスを代表するチーズと言えば、有名なマロワールMaroilles があります。映画Bienvenue chez les Ch’tisの中にも登場しましたが、この強烈な匂いのするチーズを朝からコーヒーにつけて食べる人もいるんですよ。実際、うちのおじいちゃんも昔からそうしています ! こうして話してみるとフランスと一口にいっても、地方ごとに個性があるのがわかりますよね。
フレンチブルーム しかも日本の地方と直接結びついているケースが多いんですよね。つながり方も多様です。そこに目を向けるともっとフランスが面白くなるでしょう。私の住んでいる神戸市はマルセイユと姉妹都市です。古くからある港町つながりで、提携して50年以上が経ちます。また私の故郷の富山市はコンパクトシティとして世界的に注目されているのですが、ストラスブールをモデルにしたユーロトラムが走り、パリの自転車レンタルシステム、ヴェリブ Vélib が直接導入されています。「持続可能な街づくり」という観点からのつながりといえるでしょう。
ひつじ 折しも日本にはたくさんの外国人観光客が押し寄せています。フランス人にも日本の地方都市の素晴らしさとフランスとのつながりを発見して欲しいですね。「弘前×フランス」週間のようなイベントが各都市で行なわれると、特色が見えやすくなってますます興味を惹かれると思いますよ。
◇初出=『ふらんす』2015年12月号