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釣馨 + Ghislain MOUTON「Dessine-moi un mouton !」

第4回 ムートンと星の王子

フレンチブルーム このコーナーに«Dessine-moi un mouton ! » というタイトルをつけてしまったので、『星の王子さま』に触れないわけにはいかないでしょう。もちろんムートンさんの名前にちなんだのと、この台詞に込められた、想像力の大切さを踏まえてのことなのですが、さらにタイミングよくアニメ映画『リトルプリンス 星の王子さまと私』が今年11月に日本でも公開されることになりました。

ひつじ 『星の王子さま』は現在までに250以上の言語に翻訳され、8000万部以上が売れた世界的なベストセラーですが、それを原作にした初のアニメーション映画ですね。原作の権利を管理しているサン=テグジュペリ・エステートが、小説のその後の物語を描くことを初めて公認したそうです。CG アニメーション映画『カンフー・パンダ』などで知られるマーク・オズボーンが監督を務め、英語版では声優にマリオン・コティヤールらが名を連ねています。

フレンチブルーム おそらく日本でも大人気になるでしょうね。授業で学生に仏語版の予告編を見せましたが、反応は上々でした。2005年1月に『星の王子さま』の翻訳出版権が消失し、多くの新訳が出版されて以来の注目度の高さですね。ムートンさんにとって『星の王子さま』はどんな作品でしたか?

ひつじ 実は小さいころは自分から読んだことがなかったですね。小学校のころ、授業で丸暗記させられました。ラ・フォンテーヌの詩と同じように。そのせいか、あまり思い入れがなかったのが本当のところです。

フレンチブルーム フランス人にとっては、ラ・フォンテーヌと同じくらい、あまりに古典すぎる作品になってしまったということでしょうか。

ひつじ 次に読んだのが大学3年生の時でした。フランス語を日本語にする翻訳の授業で、『星の王子さま』を扱いました。子ども向けの絵本として有名ですが、どれだけ内容が難しいかって、よーく分かりました(笑)!

フレンチブルーム 日本でも、「なぜフランス語を勉強しているんですか ?」と聞かれて、「フランス語で『星の王子さま』を読めるようになりたいから !」と答える人は昔から多いですね。

ひつじ でも、内容がかなり大人向けで、中級レベルの文法事項も含まれると知ったら、皆さん驚くのではないでしょうか。ところで、本連載のタイトルに絡めて言えば、内藤濯訳には「ね…ヒツジの絵をかいて!」とありますが、オリジナルは、« S’il vous plaît... dessine-moi un mouton ! » になっています。

フレンチブルーム «S’il vous plaît » と、« dessine » というtu の命令形は矛盾していますね。

ひつじ そうですね。このような間違いに子供らしさが表れているんです。その反面、子供のお話にしては『星の王子さま』は格調高い文章なんですよね。単純過去で書かれているし、疑問文は倒置形になっています。『星の王子さま』のフランス語に挫折する人が多いとすれば、日本語訳のやさしい文章で書かれた童話的なイメージとのギャップが大きいからじゃないのでしょうか。

フレンチブルーム なるほど。それに、日本の学生たちはオリジナルのタイトルに、「星」がないことに気がついて驚きます。

ひつじ 英語版もThe Little Prince ですしね。イタリア語版は Il Piccolo Principe、ドイツ語版はDer Kleine Prinz と、どこの言語も« Petit » の本来の意味を重視しています。日本語では『小さな王子さま』にならなかったんですね!

フレンチブルーム 2005年の新訳解禁以降は『小さな王子』や『小さな王子さま』というタイトルで訳を出した方がいらっしゃいますが、ずっと内藤濯訳の『星の王子さま』が定着しています。

《文法&ボキャブラリー》
★ apprivoiser
☆ Qu’est-ce que signifie « apprivoiser »?(飼いならすってどういう意味?)と王子さまはキツネに問い続けます。今回はこのapprivoiser という動詞に注目してみましょう。
本来の意味は、野生動物を飼い馴らすこと。人に使う場合は、社交的にする、愛想よくさせる。さらに、人を誘惑する、徐々に魅惑するという意味があります。
☆ apprivoiser はシャンソン「オー・シャンゼリゼ」(Les Champ-Elysées)の一節にも登場します。
 Il suffisait de te parler, pour t’apprivoiser.
 (君と親しくなるために、君に話しかけるだけで十分だった)
☆さらに、ジョルジュ・ビゼーによるオペラ《カルメン》の中で歌われる有名なアリア《ハバネラ》(Habanera)の中にも。
 L’amour est un oiseau rebelle     恋は言うことをきかない鳥
 Que nul ne peut apprivoiser      誰も手なずけられない

◇初出=『ふらんす』2015年7月号

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著者略歴

  1. 釣馨(つり・かおる)

    神戸大学他非常勤講師。仏文学・比較文学。FRENCH BLOOM NET 主宰。

  2. Ghislain MOUTON(ジスラン・ムートン)

    琉球大学非常勤講師、ひつじフランス語教室代表。

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