白水社のwebマガジン

MENU

釣馨 + Ghislain MOUTON「Dessine-moi un mouton !」

第5回 子供に学ぶ仏語学習のヒント

フレンチブルーム ムートンさんは奥さんが日本人で、小さい子供さんが2人いらっしゃいますが、ムートンさんのバイリンガル教育は順調ですか?

ひつじ ええ、大変ですが、楽しんでやってますよ。

フレンチブルーム ハーフの子供は自然にバイリンガルになると思われていて、子供をバイリンガルにするのに親が血のにじむような努力をしていることはあまり知られていませんね。お子さんにはどんなものを見せていますか?

ひつじ 今のところは、フランス語版のディズニーとバーバパパのDVD でしょうか。絵本も、ディズニーとバーバパパのフランス語版しか読まないですね。フランスから直接送ってもらっています。

フレンチブルーム 子供をディズニーのようなアメリカ文化に触れされることに抵抗はないんですか。

ひつじ 私自身、10歳のときディズニーの『ファンタジア』に夢中になりました。アメリカ文化には全然抵抗のない世代です。フランスのアンチ・アメリカ的な態度は政治的な身振りに過ぎないのです(笑)。

フレンチブルーム うちも子供にディズニーを見せていましたが、外国語教材としてのクオリティが、ものすごく高いですよね。ああいうふうにイメージを通して外国語に簡単に触れられるなんて、いい時代になりました。

ひつじ そうですね。子供たちが羨ましいです。

フレンチブルーム 私の子供はもう中学生になってしまいましたが、小さいころ、子供の言語的な発達を観察するのはとても興味深いものでした。子供はまず親の話すことを注意深く聞き分けることから始めます。まずは音の差異から言葉を学んでいくわけですよね。

ひつじ 同じように外国語を学ぶときも、音から入ることはとても大事です。子供は、手持ちの少ない言葉で、間違いを親に直してもらいながら、トライ&エラーで一生懸命リアクションします。そのうち、文法を教わるわけでもないのに、文をきちんと組み立てるようになります。

フレンチブルーム 文字を憶える前の、子供の「まる憶え」能力はすごいですよね。長めの絵本でもスラスラ暗唱しちゃう。

ひつじ そうそう、うちの子はもしかして天才? とか思っちゃう(笑)。

フレンチブルーム 「寿限無」などはその時期にぴったりの言葉遊びになるのでしょう。子供は簡単に憶えちゃうでしょ。それが、文字を憶えるとそれができなくなる。できなくなるというか、文字によって記憶を外在化できるので、そうする必要がなくなる。

ひつじ その分、文字に頼ってしまうんですよね。

フレンチブルーム 今の学生たちを見ていると、受験英語の弊害なのかもしれませんが、フランス語を聞くことをおろそかにして、ひたすら文字を読もうとする傾向がありますね。それと日本語の訳を逐一確認したがります。

ひつじ 最初のうちは聴くことに集中した方が良いかもしれません。「聴く」とは、言葉を音の体系として捉えて、世界と音声を直接結びつけることです。実際に会話するときは、文字を見ながら話さないですよね。スピーキングが上達したければ、例えば、頭の中でシミュレーションするのがおすすめです。今日フランス人と話したけど、言いたいことがうまく伝わらなかった、今度はこういうふうに言ってみようと頭の中でいろいろシミュレーションしてみるんです。

フレンチブルーム 日本人はすぐに文字に書き出してそれを読もうとします。それは音から遠ざかることになりますね。文字依存と言えば、つい最近まで大学のフランス語は文法中心で、文学テキストを読み齧ることが目的でした。教える側自身が、聞くことや話すことを下に見てきた経緯もあります。文法は参考書を買えば自分で基本的なことは勉強できます。しかし「聞く、話す」技能をきちんと習得させるには、データに基づいた綿密なプロセスの積み上げが必要になってきます。

ひつじ それに加えて、どんな簡単なことでも、話せる喜びというのが確実にありますね。それはフランス語をやる上でも最も大事なモチベーションや自信になるのではないでしょうか。

《文法&ボキャブラリー》
★ 次のタイトルはディズニーのどの作品でしょう?

Le livre de la jungleLes aristochatsBlanche-NeigeMerlin l’enchanteur
CendrillonWinnie l’oursonTrois Petits CauchonsLe petit Chapelon Rouge

☆ 答え:
①『ジャングル・ブック』②『おしゃれキャット』③『白雪姫』④『王様の剣(つるぎ)』
⑤『シンデレラ』⑥『くまのプーさん』⑦『3匹の子豚』⑧『赤ずきん』

ディズニーとはいえ、『王様の剣』はアーサー王物語だし、ペロー童話やグリム童話など、ヨーロッパにルーツがある作品ばかりですね。

◇初出=『ふらんす』2015年8月号

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 釣馨(つり・かおる)

    神戸大学他非常勤講師。仏文学・比較文学。FRENCH BLOOM NET 主宰。

  2. Ghislain MOUTON(ジスラン・ムートン)

    琉球大学非常勤講師、ひつじフランス語教室代表。

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年12月号

ふらんす 2024年12月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる