第5回 島くとぅばの中にみるチャンプルー発想/兼本円
「あまはい、くまはい、いちむどぅい」、今回は兼本円さんの第2回。前回に続き、「チャンプルー文化」が感じられるネーミングを紹介します。
島くとぅばは絶滅の危機にあるが、逆に自身を内省してみると懐かしさを感じる。その気持ちを頼りに思いつくままに「あまはい、くまはい、いちむどぅい」をしてみたい。
今回も前項にならって「島唄」に触れる。古謝美佐子をリーダーとした初代「ネーネーズ」が世に出る以前に女性グループの「フォーシスターズ」(60年代)が登場した。彼女たちのヒット曲、「チンヌクジューシーメー」は沖縄料理を島くとぅばで歌ってヒットしてたが、グループ名は「四人娘」ではなく、Four Sisters、英語名なのだ。その後のネーネーズは言わずもがなの島くとぅば。[お姉さん=ネーネー]プラス[ズ、英語の複数形]である。たかが名前、されど名前。県民の復帰後の感性は次第に「チャンプルー化」の発想へと変わって行ったのではないか(92年には「ゆいゆいシスターズ」も結成された)。次はあまはい。
「ポロユシ」をご存知か。カリユシウエアが出て暫くして登場したカジュアルウエアである。「ポロ」は「ポロシャツ」のポロで「ユシ」は「カリユシ」の「ユシ」である(カリユシより値がはる)。「ゆいレール」の名前にしてもしかり(「ゆい」(結)は相互の助け合いを示す島くとぅばと、モノレールの「レール」)。次もあまはい。
子供達自らの身の安全意識を高めるために「いかのお寿司」の標語(いかない、乗らない、おおごえを出す、すぐ逃げる、知らせる)が小学校校門に横断幕として定着している。ユーモラスで覚え易いが、沖縄の小学校でもチャンプルー発想で独自のものを用意している。那覇市教育委員会作成のステッカ-「Goya運動」だ。駆け足で自宅に向かうゴーヤーが描かれている。Go = 行く、ya = 家で英語と島くとぅばをチャンプルーしている。子供達の下校時の合言葉になって久しい。再度島唄へといちむどぅい。
70年代に沖縄出身の5人兄弟グループサウンズ、フィンガーファイブが登場した。彼等の「名前」は時を経て沖縄で交配された新品種のオクラの名前として採用された。Okraの別名はlady’s fingersである(因みにファインガーファイブの末っ子は女の子、妙ちゃんというレディー)。フィンガーファイブの歌を懐かしく思ってつけた名前であろう。英語の別名と懐かしいグループサウンズをチャンプルー化してのことだと思う。今度はいちむどぅい。
一期一会を歌った島唄、「兄弟子節/イチャリバ・チョーデー」は県民の人懐っこさを歌ってヒットした(出会ったとたんに兄弟だ、なんの隔てがあろうか《歌詞和訳》)。ビギンが観光歌としてこの歌を基にして「ウエルカムチュ」(welcome +人=チュ)というチャンプルー語を歌詞に取り入れて歌っている。島人以外の日本人、外国人、観光客を分け隔てなくウエルカムンチュの心で迎えましょう、と呼びかけている。
中城村の材木店が販売しているSumeeとは防犯カメラである。この命名法も英語(me)プラス島くとぅば(ミーの「見る」)のチャンプルーが仕組まれている。全体のSumee(スーミー)の島くとぅばの意味は「覗き見」である。一見いかがわしい意味に受け取られるが、インパクトを狙った名前である。明らかにカメラと分かるようなものではなく、目立たない小型で景観を損なわない仕様になっている。締めのくまはい。
「不老長寿」のヌチグスイ(命の薬)として知られる水前寺菜は島くとぅばでは「ハンダマ」(別名の「春玉」からか)と称されている。沖縄ではどこの庭でも育つほど繁殖力旺盛の野菜。Okinawan Spinachとも称されている。沖縄の茶の間では復帰以前からアメリカアニメの「ポパイ」に親しんできた。ほうれん草(Spinach)を食して即パワーアップする彼の雄姿を見ている。島人はアメリカ人にこの野菜をポパイになぞって説明したのだろう。
絶滅危機に直面している島くとぅばであるが、沖縄の新語の根底には島くとぅば、日本語、英語の3言語の発想がまだ脈うっている。次項では沖縄のあちこちにみる草花木の名前を3言語で比較してそれぞれの視点の違いを見ることにしたい。その後「チャンプルー」の視点を浮き彫りにしたいと思う。