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「あまはい、くまはい、いちむどぅい 沖縄で考えることばのいろいろ」島袋盛世・兼本円・髙良宣孝

第11回 ミーフックヮーギー/兼本円

「あまはい、くまはい、いちむどぅい」、今回は兼本円さんの第4回。前回に続き、沖縄語での植物の名づけの発想を考えてみます。

 前回はハゴーギーことサルスベリ(百日紅)について記した。その名は木に触ったり、揺すったりした後の結果からついた名前であった。花や木の外見、見てくれからついた名前ではないところが面白い。いかがでしょうか。この様に沖縄の草木の名前は人が「接触」することから付いた名前があるかと思うと、「触るべからず」の警告から付いた名前もある(後に説明有り)。その一つが(オキナワ)キョウチクトウの木である。この名を漢字で記すと思わずその木に触りたくなる。「夾竹桃」である。
 「夾」は何かを挟むことを意味して、「竹」は縁起物の竹の形に似た葉、「桃」は桃の花の色と美味しいその実に喩えられている。その様は正にブーケを思わせる(写真左)。また、この花の香りは高いときている。触りたくなってしまう衝動に駆られる。しかし、この花や木に触ろうものならその毒素により「目(ミー)が膨れる(フッキーン)」ことになる。かなりの有毒なのだ。英語名はどうか。警告を促してくれるかどうか。oleander、別名はrosebayである。その道の人でない限り、この両方の名からも「触るべからず」の意味は想像できない(毒素は「オレアドリン」と称される)。むしろ、rosebayの名前からバラを想像して、枝を切り取り机上に置いておきたい気持ちにもなる。右下にあるのはゴッホの「キョウチクトウ」である。誰が生けてくれたのだろうか。大丈夫だったのか。要らぬ心配が去来する。
 沖縄では身の回りで夾竹桃をよく目にする。もしかすると沖縄ではハイビスカス(仏桑花、アカバナー)の次くらいに普通に見ることができると思う。なぜか。ある人は防砂林として役立てていると言う。勿論、美しく目を楽しませてくれるからと説明する人もいる(確かに触りさえしなければ目は楽しむに違いない)。しかし、この花はよく空港や基地のフェンスを覆うかのように植えられている。再度、なぜか? 理由を尋ねると「防音効果」があるというのだ。それが本当なら植栽した人の知恵に感心させられてしまう。触ると危険、しかし綺麗、さらに音も吸収する、この3段構えの理由から誰にも邪魔されずに咲き続けているのだろう、もう一つ、フェンスの向こう側の目隠しにもなっていると思う。
 ところで、この花を見る度に思い出す歌がある。かなり昔になるが、「今年も夾竹桃の花が咲きました...」という歌の出だしである。脳裏に鮮明に残ったのはこの歌の一ヵ所だけが島くぅばであったことだ。「チバリヨ、チバリヨ」(頑張れよ、頑張れよ)の他全部が共通語であった。その「チバリヨ」が何に対する励ましであったかは全く覚えていないが、自分の中の何かを励ましてくれている気がして立ち止まり聞き入ってしまった...がしかし、時が経つと曲名も歌手名も忘れ去ってしまった。喉元まで出かかっていることばを思い出せない。この苛立ちからグーグルを数回グルグルするうちにやっと見つけた。さらにYou Tubeで曲全部を聞くことができた。歌手は「琉とけし」で曲が「故郷チバリヨ」であった。演歌ともいえない軽快さと三線の懐かしい音が工夫されている。話題を戻す。
 「ミーフックヮーギー」という名前は憶えていたい。そして家族にも伝えたい。誰にも触って目を膨らませて欲しくない。夾竹桃、oleander、rosebayの名前のままでは少々危険な気がしてきた。この木に関しての記事を読み続けると「青酸カリ」に匹敵する毒だとされている。目が膨れるどころではない。
 「今年も夾竹桃の花が咲きました」どころではない。
 前項でも書いた通り、島くとぅばのことを書いていると様々な記憶が蘇ってくる、楽しい。前項では「ハゴーギー」であったが、今回は「ミーフックヮーギー」が那覇のレコード店で流行りの曲を物色していた頃の自分の姿を思い出させてくれた。
 あまはい、くまはいを続けさせてもらっているが、次項では沖縄で珍重される「琉球黒檀」(くるち)についてユーモラスな思い出を交えながら記することにしたい。お付き合いのほど宜しくお願いいたします。


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著者略歴

  1. 兼本円(かねもと・まどか)

    琉球大学教授。インディアナ大学卒、同大学で修士号取得。専門はコミュニケーション学、非言語コミュニケーション論。主な著書に『言語教育学入門』(共著、大修館書店)、『地球市民としての英語』(共著、英宝社)など。

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