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おおくぼとものり「おるたな・ふらんせ」

第9回 un pique-nique quoi ! ―ゆうたらピクニックやけど

 日本語には、終助詞という文法カテゴリを中心に、主たる内容はおなじでもそのいいかたのニュアンスをかえる文末表現が豊富にある。それによって普通に文が断定か疑問かということがきまったりもするのももちろんだが、それにとどまらず、その直前までにいってしまった内容についての自分の態度やキャラ、ジェンダー、あいてにたいするなれなれしさのどあいなどもあらわせてしまう、とても取扱注意なアイテムである。フランス語なら老若男女だれでもj'y vaisというしかないことを、日本語は、「いく」「いきます」「いくぞ」「いくぜ」「いくとも」「いくの」「いくわ」「いくよ」「いくわよ」「いくね」「いくから」「いくし」などと、多用な文末形式をほこり(別にほこってないか)、日本語ネイティブは、これらがどれも微妙にちがうというそのニュアンスを感じとり、非ネイティブには、ほんとに日本語がこんなことになっててスミマセンとおもわずいいたくなる状況であることに気づかされる。

 フランス語とか英語とかの、動詞だけは派手に活用するくせに、あとは単語をまっすぐならべるだけの言語をまなんだとき、え、じゃあ「〜ねえ」とか「〜っす」とかそういう語感ってこういう言語ではどうするのと、筆者などは中学時代におもっていた。フランス語にはこういう文末形式はないよね、だからフランス語ではものごとをハッキリいうのだ、とおもいがちなのだが、この連載をよんできてくれた読者諸氏は、それがそうでもないことを、もうかなりわかってこられたこととねがう。「対話調整辞」といえば学問的だが、いろんなところにでてくる一見意味のないごちゃごちゃした表現があり、それは文末にでてくることもあるのだ。enfinなども「ってか」のあとがつげない、いいよどみ形式としては文末にでてくることもあるが、文末にきこえるquoiは、この用法では文末専門で、辞書など(例『プチ・ロワイヤル仏和辞典』)には「要するに…ということさ」(この「さ」がイタい)などと訳語があり、こういう例文Tu es libre demain ? On va faire une promenade, un pique-nique quoi ! がある。これを「おるたな訳」すると、「あしたひま? みんなで散策とかどやろ、ゆうたらピクニックやけど」と関西弁にたよらざるをえない。この「ゆうたら」は、標準語訳なら「いってみれば」とするところだが、それではquoiのカジュアルさがでないので、とりあえず関西弁訳で理解していただくしかない。文末quoiの奥義については、次号おくりとなってしまった。今回は感じだけ感じとっていただいたということで、ご期待。

◇初出=『ふらんす』2015年12月号

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著者略歴

  1. おおくぼとものり(おおくぼ・とものり)

    関西大学教員。仏語学・言語学。

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