第1回 「おるたな」ってなんぞや?
「おるたな」というのは、英語のalternativeを、英語的にはそこできってはいけないところで平気できって、だいたいの日本語のおとをあてはめたことばで、フランス語ではもちろんalternatifのこと。この単語の意味がしりたくて辞書をみても、「交互の」「周期的な」「二者択一的な」と、なんだかよくわからない。洋楽ではすこしまえから「オルタナ(・ロック)」とよばれるジャンルがあるが、「交互のロック」「二者択一なロック」といわれても、はて? である。
「主流」にたいして「反主流」と対抗しているのではないが、なんか、どこかでおもて舞台には登場せず、それでもすてがたいもの、アウトサイダーでもないけど、もし「主流」がなかったから、これがおもてにでてくるのかしら、というとこらへんが「二者択一的」の意味するところか。「代替」という訳語もあるが(「代替教育」「代替医療」etc.)、「代替」ではなんだか代用品、しゃーなしの印象をあたえるので、そうもいいたくない。
この連載は、そういうフランス語の話なんです。フランス語の文法力をつけるためには、たとえば「複合過去・半過去のつかいわけ」とか、「代名動詞の用法分類」とか、「関係代名詞lequel / laquelle」とか、王道の文法事項の理解と習熟が不可欠なのはいうまでもない。しかし同時に、基本文法を100%マスターしても、ぼくたちは、なぜか、ちっともフランス語をうまくつかいこなせず、ぎくしゃくしたまんま(かくして外国語はよめるけどほぼ話せないというひとたちがたくさん輩出されたりもしてきた)。そして、ネイティヴのフランス語には、いつまでたってもなんだかよくききとれない、ぐしゃぐしゃっとしたものがまじっている、そんな感じがする。
日本語には、たとえば「てか」「だからさぁ」「んじゃ」のような、(それをよくつかう)ぼくたちにもうまく意味を説明できないアイテムが、このほかにもいろいろそろっている。こういうのをつかいこなせないと、日本語のながれにのっかるのはむずかしい。そして、「論理的なフランス語」に、こんななぞの表現に類似したものがあるわけがないとおもっていたら、実際には結構あったりする。
王道のフランス語からはぬけおちているけど、みすごせない、とてもフランス語的なもの、そういうトピックをとりだして、「おるたな・ふらんせ」と名づけ、観察してみよう。来月は「てか」をフランス語で、の話から。ご期待!
◇初出=『ふらんす』2015年4月号