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おおくぼとものり「おるたな・ふらんせ」

第2回 てか、enfinって意味ひろすぎるくない?

 わかい世代を中心につかわれる日本語のいいまわしにはいろいろあるが、たとえば「てか」は、会話を縦横無尽にあやつるための便利な表現である。説明するまでもなく、「というか」を縮約したかたちで、「〜というよりもむしろ」という意味がもとである。しかし、その意味はもっとひろがっており、修正すべき「〜」もないのに突然、「てか、おなかすいたよね」のような使用例も普通で、読者のみなさんにしても、いまではこれを特におもいきった使用とおもうひとはすくないかもしれない。「てか」はいまや、「〜というよりもむしろ」ってか、「いきなり(はなしの方向がかわるん)だけど」程度のゆるい(したがって便利な)話題転換マーカーのようになっている。

 こういうのは、「非論理的な日本語に特有」で、などと話をもっていくのがすきなひとがたくさんいるが、フランス語にも、これにくらべられそうな表現がある。enfinである。辞書のみだし語としても、*が2つもついている重要基本語で、enとfinだからat lastだよねと軽率に理解してしまうと、実際にフランス語で会話をする段になって、事情がだいぶちがうことに気づかされることになる。ってか、なんか話の途中とか、ひくいこえで「ファ〜ン」とかいうの、あれなんだろ、とおもっていたら、実はenfinだったのである。「最後に」の意味ではない、このおるたなenfinにはいくつかの用法があり、「おるたな」といいつつ、学習辞書レベルのものにもくわしくのっているので、この紙幅ではそちらをご参照というしかないが、最後に→要するに→ちょっとちがういいかたすれば的に、意味は「てか」にちかづいている。

 Elle est blonde, enfin plutôt rousse. これを「彼女は金髪、最後に/要するに赤髪」とやると何をいっているのかわからないが、これはblondeといってしまってから、「あ、やっぱりそうじゃなくて赤髪」という事実上前言の撤回をふくむ訂正をenfinでおしきっているのである(ちなみに「赤毛」は差別語である。「金毛」とはいわないし「黒毛」は和牛専用でしょ)。かといって「というより」とはっきりいっているのではないし、単語自体よわくしか発音されない、といった事情をかんがえると、これは「金髪、ってか赤髪だな」などとやるのがよさそうである。実際には訂正するくせに「要するに」でおしきるフランス語の強引さって、なんかフランス語っぽいよねえ、などといいたくもなるが、enfinの意味のひろがりは、実は「てか」以上にさらに広範である。次回はそのことについて。

◇初出=『ふらんす』2015年5月号

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著者略歴

  1. おおくぼとものり(おおくぼ・とものり)

    関西大学教員。仏語学・言語学。

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