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おおくぼとものり「おるたな・ふらんせ」

第8回 おるたなグルーブ

 この連載もすでにおりかえし地点をすぎたので、おるたな・ふらんせの「おるたな」性についてすこし再考してみたい。フランス語のはなしでなくなってしまうが、東京山手方言を標準語とする日本語では、大阪弁は、その存在そのものがおるたなである。日本語ができるようになった!とおもって日本に留学にきて、まちがって大阪の大学をえらんでしまった外国人留学生は、「学校でならわなかった」かずかずの日本語にガク然とする。さらに、大阪人には大阪弁原理主義者のツワモノがそろっている。外国人留学生にかぎらず、日本語話者であっても、非大阪弁ネイティブが、郷にいっては、とちょっとでも大阪弁をまねようものなら大変なことになってしまう。大体あっていてもだめなのだ。「いやいや、大阪のひとはそんないいかたせえへんし」とみくだされ、あげく「ヘタにまねようとしてすみませんでした」と土下座しながら、「金輪際、もう二度と大阪弁のヘタなまねなんかしまへん、あ、すいません、しません」とちかわされる、わけはないにしても、なかなかてきびしいのは事実である。

 この「なんちゃって大阪弁」への大阪人の不寛容については、さすがにこの連載でこれ以上たちいることはできないが、なんでこんなはなしをするかというと、「おるたな・ふらんせ」にも気をつけろということをいうためだ。「っていうか」のenfinにしても、「みたいな」なgenreにしても、なんというか、ことばのグルーブというか「こころいき」のようなものを習得したうえでつかいこなす必要があるということだ。非ネイティブは、そもそもがフランス語話者としてのおおきなハンディキャップであることはいうまでもない。いうまでもないが、同時にこれは大変不当なことでもあり、いますぐにでもなんとかしないといけない抑圧状況(ネイティブいばるな)でもあるのだが、それはそれとして、おるたな・ふらんせというのは、こなれたふしまわしのなかにおりまぜてつかわなければイケてないということ。

 たしかに、はやりことばやワカモノっぽいことばづかいをそこだけまねして、「へへへ、居酒屋なう、ヤバイっす、テヘ」とかはなすおやじはキモいということがある。そうかそういう感じねと、ぼくたちも、おるたなのさじ加減には注意せねばと、キモイ、いやキモに銘じざるをえないということなのだ。

 そんなわけで、次回は、quoiについてかんがえる。「クワ」と、おともまぬけだし、やっかいな単語である、でもオヤジっぽくならないようにつかいこなしてやるぜ。

◇初出=『ふらんす』2015年11月号

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著者略歴

  1. おおくぼとものり(おおくぼ・とものり)

    関西大学教員。仏語学・言語学。

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