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リレーエッセイ「世界のことばスケッチ」

第1回「ハワイ語①」古川敏明

◎ハワイ語基礎知識◎

【主な使用地域】アメリカ合衆国ハワイ州
【話者数】推定2万人(詳細は本文を参照)
【使用文字】アルファベット、カハコー(長母音ā, ē, ī, ō, ūを表す記号)、オキナ(声門閉鎖音を表すʻ)
【あいさつしてみよう】
Aloha(アロハ)おはよう、こんにちは、こんばんは、ありがとう、さようならなど
Mahalo(マハロ)ありがとう
Pehea ʻoe?(ペヘア・オエ)調子はどうですか
ʻO ia mau nō(オ・イア・マウ・ノー)いつも通りです
A hui hou(ア・フイ・ホウ)またね


「楽園」ではなく「日常」で継承される言語

 大学の授業でハワイを取り上げると、受講生の期待値がぐっと上がるのを感じる。しかし、その期待は「観光」、「楽園」、「非日常」というキーワードと結びつき、ハワイにはどのような人々が住み、どのような言語が話されているか、受講生が知っていることは限定的である。
 ハワイ語はオーストロネシア語族のポリネシア諸語に分類される。ポリネシアといったら、日本では2017年に公開されたディズニー映画『モアナと伝説の海』に描かれている世界を思い浮かべる人も多いだろう。ハワイ語はタヒチ語やサモア語といったポリネシア諸語と近い親戚関係にあり、インドネシア語や台湾原住民語などのアジアの言語と遠い親戚関係にある。
 家庭での使用言語に関するハワイ州の統計資料(2016年3月)によると、5歳以上の人口約128万人のうち、家庭でハワイ語を話しているのは約1.8万人だ。4歳以下の子どもを算入して約2万人だろう。内訳は年配の母語話者が多くて数十人で、1980年代に開始された没入教育(ハワイ語のみでの教育)を受けた新しい世代の母語話者、科目として学んだ第2言語使用者が大半を占める。
 ハワイ大学では学部生を対象とするハワイ語クラスが多く開講されている。先住民系の学生を中心に、より高度な科目を履修し、大学院へ進学する人もいる。ハワイ語で博士論文を執筆することも可能である。こうした学生の中には、就学前から没入教育を受けた人たちがいて、最初の世代は現在30代半ばで、今度は自分たちが親世代として次世代をハワイ語で育てる段階に来ている。
 しかし、すべての先住民系の人々が子どもたちに没入教育を受けさせているわけではない。英語を教育言語とする公立・私立校、先住民文化を中心に学ぶチャータースクールなど選択肢は複数ある。ハワイ語の詩の表現が根底にある伝統舞踊フラの実践を通じて、日常会話とは異なる側面からハワイ語の知識を継承している人々もいる。
 ファーストネームやミドルネームにハワイ語を使う場合もある。私が出会ったクラスメートや先生、その家族の中にも、女性だったら、プア(花)、カナニ(可愛い)、マヘアラニ(満月)、男性だったら、ケアロハ(愛)、ケコア(戦士)、ケオニ(動く)という人たちがいる。また、2018年のフラ大会の優勝者は、カプアウイオナーラニ(天の美しい花)という長いミドルネームを持っていた(ただし、日系人であることを示すキクヨというミドルネームもある)。
 このようにさまざまな形でハワイ語を実践する人々が漏れなく上述の統計に反映されているわけではない。
 ハワイには1810年から1893年まで近代的な王国が存在した。王国の転覆後、統治形態は共和国、準州と変遷し、現在のハワイ州となっている。日本をはじめとする国や地域からの移民の流入、日米の戦争、観光地化にまつわる歴史を紹介すると、受講生はハワイがグローバル化のただ中にあり、ハワイを起点にして国際関係が学べることに気づくのである。
 次回以降はフラやハワイアン音楽といった文化に加え、新聞やラジオ、ネットと連動したニュース番組などメディアとハワイ語の関係を取り上げる。また、先住民語であるハワイ語と密接な関係を持つピジンと呼ばれる言語についても紹介したい。


就学前の子どもをハワイ語で教育するプーナナ・レオ(声の巣)を示す地図

【執筆者略歴】
古川敏明(ふるかわ・としあき)
大妻女子大学准教授。専門は言語学、ディスコース分析、ハワイ研究。

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