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リレーエッセイ「世界のことばスケッチ」

第5回「中国語①」山崎直樹

「ゆる華語」

 近年、わたしは「ゆる華語」という概念を広めるべく活動している。
 ところで「華語/华语」(発音は「ㄏㄨㄚˊㄩˇ / Huáyǔ」)という言語名を聞いたことがおありだろうか。「中国語のことでしょ?」……はい、そうです。厳密に言えば、わたしたちが「中国語」と呼んでいる言語の中でも、シンガポールや台湾や中国で公用語の(1つとして)ステイタスを与えられ、公的な場面や学校教育で使われている変種を指すことが多い。また、この言語は東南アジアや北米大陸をはじめとする各地の華人社会でも広く使われている。これらの地域では華語による映画や活字メディアなどもある。
 この各地の華語は元を辿れば1つなのだが、今では、音声、語彙、文法、語用的な習慣、それぞれにおいて地域差がある。ただ、相互の意思疎通に支障は無い程度の差である。なお、使用する文字、正書法などは言語政策により人為的に異なったものとなっている。
 この各地の華語の地域差について、「中心には、あくまで●●国の華語を据えたうえで、各地のバリエーションも容認しよう」という主張をし、そのような華語の集合体を指すために、「大華語」という概念を打ち出した人(たち)がいる。
 日本の中国語教育は●●国のそれを規範とすることを、かつては多くの人が疑っていなかったので(今では少し違うかも)、上述の大華語の主張の前半部分にはひっかかりを覚えず、後半部分について「バリエーションに対して寛容な態度」という好意的な印象を持った人も多かったのではないかと思う。
 わたしはといえば、「中心には、あくまで」の部分に対して、ひっかかりを覚えたので……だいたい「大○○」なんて自称するものにろくなものはない……これに対抗して、「中心となる規範の存在を拒否する、各地のバリエーションのゆるやかな集合体としての華語」、すなわち「ゆる華語」の提唱を始めたというわけである。日本の学習者にはこれがいいと信じている。
 「でも、学習者としては、学ぶ対象が1つに定まらない多様さは、複雑でやりにくい……」「我々が向き合う現実の世界が多様で複雑なんだから、それを映す言語が多様で複雑なのはしょうがないでしょ」「英語も各地でバリエーションが豊富だと思うんですが、中学校の英語の先生はそんなことはあまり……」「それは英語教育のほうがいびつだったと思わないの?」
 ……活動といっても、こんな嫌味な会話を繰り返しているだけだが……同志を募集中である。

【執筆者略歴】
山崎直樹(やまざき・なおき)
関西大学外国語学部教授
専門分野: 言語教育学、中国語学
現在の研究テーマ: 言語教育のユニバーサルデザイン化、言語教育におけるインクルージョン

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