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倉方健作「ふらんす90年」

第10回 1954年5月号


1954年5月号

 1947年8月号から「研究課題」の募集が始まると、読者の熱意と相まってたちまち『ふらんす』の看板連載となった。毎号出題される仏文和訳と和文仏訳の課題に、全国の学習者が解答を寄せたのである。2カ月後の号で解説・講評と成績表が掲載された。担当は気鋭のフランス語学者たち、仏文和訳は鈴木健郎(けんろう)(1907-63)、家島光一郎(1911-75)、川本茂雄(1913-1983)、和文仏訳は増田俊雄(1889-1962)、田島譲治(1911-2003)が懇切丁寧に解説を書いている。成績表を見ると、後年研究者・翻訳者・著述家となった人々の名前も少なくない。多くの後進が誌上で指導を受け、フランス語力を高めていったのだろう。優秀解答者10名には額面100円の「白水社発行書籍雑誌の購入券一枚」も贈呈された。

 しかし「研究課題」の盛況は痛し痒しだったようだ。解説・講評は毎号8ページないし10ページに及び、成績表と次回の課題が加わると、毎号のほぼ2割が割かれてしまう。誌面はいささか窮屈となり、記事の多様性も脅かされかねない。最終的に編集部は勇気ある決断を下した。1954年2月号の課題を最後とし、4月号をもって6年あまり続いた人気連載に終止符を打ったのである。この措置は誌面改革と連動していた。「幣誌『ふらんす』はながいあいだ、初・中級フランス語学雑誌として、フランス語研究のよき手引との講評を得てまいりましたが、5月号より初級入門誌として全く内容を改め、新しく出発することになりました。エスプリの溢れる明るく楽しい、そして香り豊かな雑誌として、斬新な、また独特のスタイルを生み出して行くつもりです。何卒今後も引続いて御愛読下さいますようお願いいたします」(1954年4月号「お知らせ」)。朝倉季雄「フランス文法覚書」、松原秀治「フランス語の書き方」、林和夫「半過去の奥行」など、やや専門的な内容の連載も、同号を最終回として「研究課題」とともに姿を消した。

 新出発となる翌年5月号の誌面は、フランスの時事ニュースから始まっている。読み物も豊富であり、語学のみにとどまらず、文学、シャンソン、映画を広く扱い、表紙を飾るピカソの少女像の解説まである。巻末の「編集室の片隅で」にはこう書かれている。「人を知るには、まずわれを忘れてその人に惚れこむことだ。目がさめたら、はっきりものが見えてくる……とぼくは信じている。だからフランス語を勉強するにも、まずフランスに、パリに夢をもちたい」「この『ふらんす』は語学雑誌である。だが《雑誌》であるからには、le tempsと追っかけっこをしてみたい」。この号こそ現在の『ふらんす』の原型と言っていいだろう。読者の反応の一部は、6月号から始まった「Salon de Causeries」のコーナーに掲載されている。「今まで少し内容が学問的すぎて程度が高く、ついむずかしそうなところは読まずにすごしていましたが、今月は初級の人を対象として編集しているためか、わかりやすく、面白く、楽しみながら、よい勉強になったようです。(文京区・Y氏、女性、学生、20才)」、「シックな編集ぶり、爽やかな誌面のシャルムにとらえられたと申しましょうか、まことにたのしいかぎりです。(千葉市・O氏、会社員、47才)」、「以前より活字が大きくなったのが、何よりもよろこばしい。以前は読みにくかった。(神戸市・Bonji氏、会社員、54才)」。

 ところで当時の読者の構成はいかなるものだったのだろうか。1956年の読者アンケートの結果が、2回にわけて誌上に掲載されている。5月号の第1回報告によれば、年齢は16歳から70歳にわたり、「20歳代が圧倒的に多数」という。地域別では地方からのアンケートが東京からのものより多く、これは販売情況を知る編集部には意外であったらしい。「東京在住の人で返答しない人が多すぎるのでしょう」と説明が加えられている。さらに6月号掲載の第2回報告では、アンケートの8割以上を男性が占め、その約半分が学生という数字が明らかにされた。現在の購買層とはだいぶ異なるだろう。ともあれ、読者の声に耳を傾けながらシックな誌面が編集されるさまは、今も昔も変わっていない。

◇初出=『ふらんす』2016年1月号

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著者略歴

  1. 倉方健作(くらかた・けんさく)

    東京理科大学他講師。19世紀仏文学。著書『カリカチュアでよむ19世紀末フランス人物事典』(共著)

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