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姫田麻利子+Steve MARSHALL「友だちだよね? フランス語と英語のちがうところ」

第11回 Le subjonctif & the subjunctive

 日常的によく使う表現や文のかたちについて、英語とフランス語の似ているようで、ちがうところを探しています。今月は、フランス語のle subjonctif(接続法)と英語のthe subjunctive(仮定法現在と過去)を見ていきます。

今月の表現

1) 君に一緒に来てもらいたいと思っている。
  仏 Je voudrais que tu viennes avec moi.
  英 I want you to come with me.

2) 彼らは私にそのセミナーに出るように勧めた。
  仏 Ils mʼont recommandé dʼassister au séminaire.
  英 They recommended (that) I attend the seminar.

3) あなた方がそこにいることが重要だ。
  仏 Il est important que vous soyez là.
  英 Itʼs important that you be there.

4) 彼が来るとは思わない。
  仏 Je ne crois pas quʼil vienne.
  英 I donʼt think heʼs going to come.

5) もっとお金があったら何する?
  仏 Quʼest-ce que tu ferais si tu avais plus dʼargent ?
  英 What would you do if you had more money?

Steve:フランス語の文法では、接続法も難しいよ、英語を先に習った人には。

Mariko:接続法が最後の章に出て来る教科書も多いからなのか、接続法をフランス語の文法のラスボスみたいに言う人いるけど、実はそんなに難しくない気がする。どんな表現の後で使うか決まってるし。この後は直説法だっけ、接続法だっけと迷ったら辞書見ればいいし。

Steve:ラスボスって何?

Mariko:最後に現れる攻略しにくい敵のこと。

Steve:ふぅん。感情や願望、義務、あと不確かなことに関して、動詞が特別な活用形になるということが、英語話者には呑み込みにくいんだよ。“What do you want me to do?”をフランス語にしようとして、« Quʼest-ce que tu veux que je fasse ? »と言わずに、«×Quʼest-ce que tu veux que je faire ? »と言ってしまうとか。これ、よくある間違い。

Mariko:faireの接続法の活用はje fasseだから難しいってこと? êtreはje sois、avoirはjʼaie、pouvoirはje puisse、allerはjʼaie、savoirはje sacheという活用は、ちょっと覚えにくいかもしれないけど、-er動詞の接続法は、直説法現在とあんまり変わらないじゃない?

Steve:いや、例外的な活用形が覚えにくいということじゃなくて、英語では、提案や要求、忠告の動詞に続くthat節で、動詞の原形を使うから。例えば、“They recommended (that) I attend the seminar.”とか。これは主語がIで動詞がattendで見かけ上、わからないけど、実はこれ、subjunctiveなんだよ。他には、“I insisted that he explain more clearly.”とか、主語はheでもexplainsにしない。

Mariko:え? それって “I insisted that he should explain more clearly.”という文ではshouldを省略することがある、だから動詞は原形って日本の英語の先生に教わったけど、接続法ってことなのか。じゃあ、advise, suggestとかの後でも?

Steve:そう。“Itʼs important that 節”、“Itʼs necessary that 節”も。

Mariko:なんか微妙!英語とフランス語では、続きの節で接続法を使う動詞の種類が微妙に違う。それに、意味やつづりが似ている「友だち」の動詞でも、その後に節が来るか来ないかという違いもある。wantはthat節を続けられないのよね、“× I want you come with me.”とは言えないでしょ?

Steve:言えない。そう言われたら、この人はフランス語の方が得意なんだろうと思う。でもadviseは、「目的語+to do」という形とthat節の両方使えるよ。たとえば、“What do you advise him to do?” と、“What do you advise he do?”の両方言える。“What do you advise he should do?”もある。「目的語+to do」にできる時はそうする人が多いと思うけど。

Mariko:それをフランス語にするのにconseillerだと「à人de 動詞の原形」しかできない。proposerなら、« Quʼest-ce que tu lui proposes de faire ? »と、« Quʼest-ce que tu proposes quʼil fasse ? »と、両方の形が可能だけど、ニュアンスが違うと思う。1つ目は「君は彼 何をするように提案するの?」で、提案は「君」から「彼」に直接行われる。2つ目は「君は彼 何をすることを提案するの?」で、「君」は誰か第三者と相談して「彼」のすることを決める感じもする。

Steve:“Itʼs important that ~”と、« Il est important que ~ »は、真性友だちじゃない?どちらも接続法。でも、英語では、たとえば “Itʼs important that she go there.”と言うと堅苦しく古臭く聞こえる。 “Itʼs important that she goes there.”の方がカジュアルで現代的。でもふだんはみんな“Itʼs important for her to go.”と言うよ。

Mariko:フランス語では « Je ne crois pas que … »の後も接続法にするけれど、たとえば« Je ne crois pas quʼil vienne. »を英語で言うなら、ふつうに “I donʼt think he comes.”でいい?

Steve:ちがうよ。フランス語の接続法は考えられる可能性や主観性を表すわけだから、「来る気はないだろう」なら“I donʼt think heʼs going to come.”だし、「都合がつかないだろう」なら“I donʼt think heʼs coming.”か、「来たくないだろう」なら“I donʼt think heʼll come.”

Mariko:えー。フランス語の接続法現在、便利ね……。

Steve:あ、そうだ、英語では、現実とは違うこと、想像したことを表す過去形も、のsubjunctiveと呼ぶよ。“If I had more money, I would buy a new car.”とか。“If I were you, Iʼd get a new job.”とか。英語のsubjunctiveについて、最初にあがる例は、このwereだよ。wasじゃなくてwere.

Mariko:フランス語では、現実とは違うこと、可能性のない仮定は、直説法半過去形だから、過去形を使うということでは見かけ上似ているのに、「法」は違うのね。

【今月のまとめ】
英語のthe subjunctiveも、フランス語のle subjonctifも、考えや主観であることを表す形ですが、どの動詞、どの表現の後で使うかは違います。英語の「If +過去形, would (could, might) +動詞の原形」(仮定法過去)は、フランス語では「Si +直説法半過去, 条件法現在」です。

《カナダ英語圏 フランス語ランドスケープ》



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◇初出=『ふらんす』2018年2月号

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著者略歴

  1. 姫田麻利子(ひめた・まりこ)

    大東文化大学教授。仏語教育・異文化間教育

  2. Steve MARSHALL(スティーブ・マーシャル)

    Simon Fraser University 教育学部准教授。著書 Advance in Academic Writing

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