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姫田麻利子+Steve MARSHALL「友だちだよね? フランス語と英語のちがうところ」

第5回 質問のしかた

 フランス語と英語のよく使う表現から、似ているようで異なるかたちを探しています。今月は、質問のしかたについて考えます。

 

今月の表現

1)どこに住んでいますか。

 英 “Where do you live?”

 仏 Vous habitez où ?

   Où est-ce que vous habitez ?

   Où habitez-vous ?

2)どんなスポーツが好き?

 英 “What sport do you like?”

 仏 Quel sport( est-ce que) tu aimes ?

   Quʼest-ce que tu aimes comme sport ?

 

Mariko:英語とフランス語の単語を知っていても、とくに疑問文のかたちは、ちょっとした置き換えじゃうまくいかなくて、つらい。« Tu habites où ? » の語順に慣れちゃってるから、“Where do you live?” というかたちを作るのに、脳が一瞬停止する。

Steve:フランス語から英語に置き換えてるからでしょ? 頭の中にある言いたいこと全体の意味に合う、英語の言い方を直接探す方法に変えたら、もう少し早く英語を話せるようになるんじゃない?

Mariko:わかってるけど、脳内に英語の表現がまだ足りなくて。ねぇ、“You live where?” というかたちは、ぜったい使わない?

Steve:使わない。でも、どこに住んでるって言ったのかよく聞こえなかったからもう1 回言って?という時とか、「何だって!? どこに住んでるって!?」みたいな、聞こえたけれどその場所の名前に驚いた場合なら、アリだね。そういう時はwhere を強調して言う。だけどフランス語でも、倒置形の疑問文はあるじゃない? « Où habitez-vous ? » って言うでしょ。

Mariko:Vous で話すような少し緊張感がある時、あるいはメールとか、書く時はね。英語は、ただ主語と動詞を倒置するんじゃなくて、do、does、did のどれかを選んで、それを先に言わないといけないじゃない、それが案外難しいの。

Steve:« Où est-ce que tu habites ? » のかたちもあって、イントネーションを上げるだけよりは少し丁寧な印象になるけど、たしかにどんな主語、どんな動詞の時でもest-ce que でいいからね。

Mariko:そう。Est-ce que と言いながら、次に言うこと確認する間(ま)も取れる。

Steve:そう言えば、息子たちは、私が« ..., nʼest-ce pas ? » という付加疑問文を使うと、おじいさんみたいって笑うけど、ふだんの会話で、もう使わない?

Mariko:ふだんの会話なら、« ..., non ? » とか、« ..., hein ? » の方が多いのかな。私は、« ~ , nʼest-ce pas ? » の方が、日本語の「~ですよね?」って言う時のリズムと似ていて、言いやすいの(笑)。ああ、英語は、付加疑問文も複雑。

Steve:まあね。だけど、たとえば、“Itʼs cold isnʼt it?” となるところ、ふだんの会話なら、“Itʼs cold, eh?” って言うこともあるよ。カナダ英語のイメージとして、よく例に出されるものだけど。

Mariko:それ、京ことばの語尾の「~え」の音とイントネーションにそっくりで可笑しい。京都の人からしたら正確には違うのかもしれないけど、私にはそっくりに聞こえて、初めて”…, eh?” を聞いた時、私が日本人だから、その人がどっかで習った京ことばの「~え」を言ってみてるのかと思った(笑)。

Steve:そうなの?

Mariko:密かに面白がってました。えっと。英語の付加疑問文で、主語と動詞、それが肯定か否定かによって、“..., donʼt you?” とか“…, doesnʼt he?” とか “..., is it?” とか考えることから逃げる方法として、“…, eh?” じゃなくて、“..., right?” はどう? ちょっとえらそうな感じになる?

Steve:えらそうにはならないよ。丁寧ではないけど。付加疑問文を言う時の注意だけど、言った文の内容に自信がなければ、付加疑問文はイントネーションを上げて言う、自信があれば、下げて言う。 “..., right?” を言う場合も、同じ。

Mariko:フランス語は、« ..., nʼest-ce pas ? » をイントネーション下げて言うことはないです。自信がある時でも、« ..., cʼest ça( hein) ? »とか、相手に確認するなら最後の母音は上げる。

Steve:英語スピーカーにとっては、what で始まる疑問文を、フランス語でどう言うかが難しいよ。« Quʼest-ce que... ? » のこともあれば、« Quel (le) est ... ? » だったり、« Comment ... ? » の場合もある。

Mariko:それね。たとえば、“What sport do you like ?” と聞きたい時、フランス語では、« Quel sport aimes-tu ? » というかたちもあるけど、日常的な会話の中だと« Quʼest-ce que tu aimes comme sport ? » と言うこともよくある。こっちのかたちは、英語にはないしね。

Steve:“What is you name?” と聞く時は、« Quel est ton nom ? » より、« Comment tʼappelles-tu ? » の方が感じがいいよね?

Mariko:名前を知らない相手にtu で話すことは、私はあんまりないから、その例がちょっとピンと来ないけど、« Quel est votre nom ? » なら、何か手続きに関して名前を聞かれてる感じ。自己紹介するときには、“Mon nom est …” じゃなくて、« Je mʼappelle … » って言う。でも、たとえば学校の教室とか職場で、« Quel est ton prénom ? » と聞くことはあるかも。ちなみに、カナダはフランスよりもすぐにtu になるね。

Steve:英語のyou の訳としてtu を使ってる感じだから。

Mariko:あ、もう1 つ聞いていい? « Comment est ton nouveau professeur ? » を英語にすると、“Howʼs your new teacher?” と“Whatʼs your new teacher like?” どっちも言える?

Steve:“Howʼs ~ ?” は、“Is he or she a good teacher?” の感じで、“Whatʼs ~ like?”の方は、どちらかと言うと、教え方のことより性格的なことを聞いてる感じがする。個人的な印象かもしれないけど。

 

【今月のまとめ】

英語のwhat は、疑問代名詞「何を」なら、フランス語ではquʼest-ce que、疑問形容詞「どんな」ならquel (le)(s)。ただし、フランス語の慣用表現ではcomment で始まる質問になるものもある。

 

《カナダ英語圏 フランス語ランドスケープ》

 前回、道路標示をご紹介したMaillardville。1909 年、フレーザー川沿いの製材業者の求人に応じ、ケベック州とオンタリオ州から110 名のフランス系カナダ人とその家族が、ここに移り住みました。家と、フランス語学校、カトリック教会が建てられ、やがてロッキー山脈西側で中心的なフランス語・コミュニティとなりました。2001年に製材所が廃業し、しだいに非フランス語家庭も増え、フランス語人口は2 パーセントとなりましたが、フランス系カナダ人の文化遺産を守る活動は盛んです。毎年3 月に行われるFestival du Bois がとくに有名です。写真は、Notre Dame de Lourdes 教会前の開拓者記念碑。


 


◇初出=『ふらんす』2017年8月号

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著者略歴

  1. 姫田麻利子(ひめた・まりこ)

    大東文化大学教授。仏語教育・異文化間教育

  2. Steve MARSHALL(スティーブ・マーシャル)

    Simon Fraser University 教育学部准教授。著書 Advance in Academic Writing

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