白水社のwebマガジン

MENU

姫田麻利子+Steve MARSHALL「友だちだよね? フランス語と英語のちがうところ」

第4回 未来のことを話す

 ふだんフランス語を使うことが多い姫田が、英語を使い始めてあやふやなことを、英語ネイティブでフランス滞在経験のあるSteve さんに聞いています。今月は、未来のことを言う表現について考えます。

 

【今月の表現】

1)明日空港まで送るよ。

 英 Iʼll give you a ride to the airport tomorrow.

 仏 Je tʼemmènerai en voiture à lʼaéroport demain.

2)雨が降り出すと思う。

 英 I think itʼs going to rain.

 仏 Je pense quʼil va pleuvoir.

 

Mariko:フランス語だと日常的なおしゃべりの中で単純未来形ってあんまり使わないけど、英語ではふつうにwill を使うでしょ?

Steve:「ふつうに」ってoften の意味? たしかに、フランス語の日常的な会話の中でふつうに使う、というか頻度が高いのは、aller + 不定法の形だね。私はフランス語を話す時、単純未来形かaller + 不定法か、どっちがいいかわからなかったらaller+ 不定法にしてる(笑)。だけど英語でも、ふだんの会話ではwill とbe going to の使い分けをちゃんと考えないで、何でもgonna で言う人は多いよ。とくに若い人達はね。

Mariko:そう? 英語だとIʼll とかItʼll とか、フランス語の単純未来形より高い頻度で聞く気がするんだけど……。

Steve:英語の使い分けを整理するよ。まず、will はその時に決めたことや提案、be going to は前から予定していたこと、もう1 つの使い分けでは、will は根拠のない予想、be going to なら根拠がある。

Mariko:そういう参考書っぽい説明をされてもさぁ、実際に使ってる例をたくさん聞かないと、使い分ける自信はなかなか持てないのよ……。たとえば何かのイベントの話になって、「来週プログラム見せるね」と言う時、英語ではどう言う?

Steve:その場で思いついて「見せるね」って言うなら、“Iʼll show you the schedule next week.” だけど、その話をする前から来週には見せるつもりだったなら、“Iʼm going to show you the schedule next week.” だね。

Mariko:それ、どっちも、ふだんの会話の中なら« Je vais te montrer le programme la semaine prochaine. » と言ってるから、will とbe going to の使い分けがピンと来ない……。もちろん、« Je te montrerai le programme la semaine prochaine. » の方がきれいだし、相手のための約束の気持ちというか、親切な提案のつもりはあるけど、一方で「よかったら」とか「忘れなければ」とか、確実とは言えないもやもやがあるし。

Steve:思いつきのオファー、親切という点では、Iʼll とフランス語のJe –rai(単純未来形)の使い方は同じじゃない?たとえば “I need to go downtown.” と言う人に、“Iʼll give you a ride.” と提案するとして、フランス語で言うなら、« Je tʼy emmènerai en voiture. » の方が感じがよくない?

Mariko : たしかに。« Je vais tʼy emmener en voiture. » と言ったとしても、« si tu veux. » は付けとく。

Steve:まあ、予定していなくても、ふつうに“Iʼm gonna give you a ride if you like.”って言うこともあるんだけどね……。

Mariko:“Iʼll give you a ride if you like.” の方が印象いいってことね。will とbe going to のちがいが、その場で決めたことか、予定していたことかなら、レストランで注文する時は、”Iʼll have ~.” がふつう?……あ、それがふつうか。フランス語は、« Je vais prendre » も、« Je prendrai ~. » も、両方よく使う。

Steve:英語でも、いつの決定だろうと “Iʼm gonna have ~.” を使う人もいるって。

Mariko:ここまでFaux amis ないですねぇ。ええと、根拠なしとありの方も例を出してみて。

Steve:OK. “I think sheʼll like these flowers.” はただの勘で言ってる、”I think she is going to like these flowers.” なら、彼女の好きな色とか花の種類とか、何か根拠があって言ってる。

Mariko:フランス語では、単純未来形とaller + 不定法のちがいは、確実じゃないか確実かと説明されることが多いけど、« Je pense quʼelle aimera ces fleurs. » は希望的観測、または控えめな感じ、« Je pense quʼelle va aimer ces fleurs. » なら自信がある感じ?としたら、使い分け方、ほとんど同じ?

Steve:そうなんだけど、フランス語の場合は、根拠にもとづいて使い分けるわけじゃないから、フランス語の方が得意な人って、英語で話す時に、明らかに根拠あることなのにwill を使ったりするんだよね。”Look at those clouds. It will rain.” とか聞くと、「ん?」と思うよ。

Mariko:「ん?」って思われてたのね、私(笑)。あ、フランス語だと現在形なのに、英語はwill の時があるでしょ? ちょっと会議なんかを抜ける時なんかの「すぐ戻ります」は、« Je reviens tout de suite. » と現在形で言うけど、英語は “Iʼll be back right away.” じゃない?

Steve:そうだね、”Iʼm coming back right away.” でもいいけど、これは帰るコールの時に使う表現になるね。Mariko:will も、確実なニュアンスがあるの?

Steve:あるね。will はmust と同じく、確実さを表す助動詞でもある。電話が鳴った時、”Thatʼll be my mum.” とかね。ママがいつもかけて来る時間だから、という知識にもとづいて言ってる感じ。その使い分けを意識しないで、must を使う人も多いけどね。

Mariko:will も単純未来も、ちゃんと意識して使うようにしてみるわ。

 

【英語とフランス語の共通点のまとめ】

未来のことを言う場合、日常的な会話の中では、英語では “be gonna”、フランス語ではaller + 不定法を使うことが多い。親切な提案を言う時は、英語は“Iʼll~ . ”、フランス語は« Je –rai. »(単純未来形)。

 

《カナダ英語圏 フランス語ランドスケープ》

 バンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州は、カナダの中でフランス語話者率が最も少ない地域です。カナダの国勢調査には言語に関する質問も設けられているのですが、2011 年の調査結果によれば、この州でフランス語を母語とする、あるいは家庭で話す人の割合は2% 以下、一番よく使用する言語がフランス語と言う人は1% 以下です。バンクーバーではフリーペーパーも、英語と中国語のものしか見つかりません。そうした地域にありながら、バンクーバー郊外Coquitlam 市のMaillardville は、フランス語やフランス系カナダ文化振興のイベントで有名です。次号でこの街の歴史をご紹介したいと思います。写真は、Maillardville の道路表示です。

 
 


◇初出=『ふらんす』2017年7月号

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 姫田麻利子(ひめた・まりこ)

    大東文化大学教授。仏語教育・異文化間教育

  2. Steve MARSHALL(スティーブ・マーシャル)

    Simon Fraser University 教育学部准教授。著書 Advance in Academic Writing

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年12月号

ふらんす 2024年12月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる