第3回 過去にしたことを言う表現
Faux amis(にせの友だち)とは、ふたつの言語の間で、似たつづりなのに意味の違う語同士のこと。この連載では、日常的によく使う表現や文のかたちについて、英語とフランス語の「にせの友だち」を探しています。
今月と来月は、動詞の時制を比べます。「ふだんしている」「今まさにしている」「した」「したことがある」「したばかりだ」などに当たる表現を見ていきましょう。
【今月の表現】
1) 毎週火曜日は6時に起きる。
英 I get up at six oʼclock on Tuesdays.
仏 Je me lève à six heures le mardi.
2) 夕食の仕度をしているところなんだ。かけ直すよ。
英 Iʼm preparing dinner. Iʼll call you back.
仏 Je suis en train de préparer le dîner. Je vais te rappeler.
3) 先週グザヴィエ・ドランの新しい映画を見たよ。
英 I saw Xavier Dolanʼs latest movie last week.
仏 Jʼai vu le dernier film de Xavier Dolan la semaine dernière.
4) グザヴィエ・ドランの新しい映画を見たばかりだ。
英 Iʼve just seen Xavier Dolanʼs latest movie.
仏 Je viens de voir le dernier film de Xavier Dolan.
5) ドランの映画は見たことがある?
英 Have you ever seen any Dolan movies?
仏 Est-ce que tu as déjà vu un film de Dolan ?
6) 彼は10か月モントリオールに住んでいる。
英 He has lived in Montreal for 10 months.
仏 Il habite à Montréal depuis 10 mois.
7) 彼女は3年間フランス語を学んでいる。
英 She has been learning French for 3 years.
仏 Elle apprend le français depuis 3 ans.
Mariko:フランス語を始めてすぐに、教科書とか辞書のうしろにある動詞の活用表を見ちゃうと、その時制の多さにやる気をくじかれるかもしれないけど、フランス語の時制の方が英語より複雑ってことはないと思うのよ。私にとっては、英語の現在完了ってすごく複雑。
Steve:英語の現在完了は〈have + 過去分詞〉で、フランス語の複合過去〈avoir + 過去分詞〉のかたちと同じだけど、現在完了形は、フランス語に訳すと、近接過去形だったり、複合過去だったり、現在形のこともあるからね。
Mariko:かたちは似ているのに、まず呼び名がちがう、現在完了と複合過去。「~したばかり」と言いたい時、フランス語では近接過去形〈venirの現在形 + de + 動詞の原形〉を使うけど、これを英語にする場合、現在完了形でも、過去形でも言えるでしょ? 上では、« Je viens de voir le dernier film de Dolan. »と、“Iʼve just seen Dolanʼs latest movie.”を並べたけど、”I just saw Dolanʼs latest movie.”でもいい?
Steve:言えるよ、justがあれば、過去形でも「したばかり」の感じは出る。北米だと、その言い方をすることも多いかな。英語の現在完了形と過去形は、現在につながることとして過去のことを言うのか、ただ過去のことを言うのかで使い分けるんだけど、フランス語だと、その両方とも複合過去形だよね。
Mariko:フランス語でも、小説とかなら、現在とつながらない過去として単純過去というかたちもあるけど、自分で話したり書いたりする人は少ないし。私が間違えやすいのは、日本語とフランス語だと現在形で言うのに、英語だと現在完了形になるもの。たとえば「彼は10か月モントリオールに住んでいる」は、正しくは “He has lived in Montreal for 10 months.“なんだけど、“×He is living in Montreal since 10 months.”って言いたくなる。
Steve:フランス語だと、« Il habite à Montréal depuis 10 mois. »と現在形で言うもんね。フランス語で« Il a habité à Montréal. »と言うと、「彼はモントリオールに住んだことがある」で、いまは住んでないことになる。
Mariko:そう、英語は現在完了進行形ってかたちもあるじゃない? 動作の動詞で、過去から現在まで続いていることを言う場合、“She has been learning French for 3 years.”とか。これもフランス語なら現在形。
Steve:フランス語は、現在形を使う範囲が英語より広いね。
Mariko:でしょ? フランス語の時制の方が複雑ってことはないはず!
Steve:フランス語は進行形の概念もないしね。
Mariko :〈être en train de +動詞の原形〉のかたちは、よっぽど「今まさに~している」感じを出す時しか言わない。でも英語だと、最近断続的にしていること、たとえば”Iʼm preparing for exams this week.”(今週は試験の準備をしている)みたいな時も、進行形でしょ?
Steve:そうだね。それはフランス語だと « Je prépare mes examens cette semaine. »と現在形で言えるね。
Mariko:英語は、これからすることも現在進行形で言うことあるよね? 来月は、未来にすることを言う表現について話そう。
【まとめ:今月のfaux amis】
英語の現在完了形で表わすことのうち、「~したばかり」は、フランス語では近接過去形、「~したことがある」なら複合過去形、「(過去から今まで続けて)~している」なら現在形で表す。
《カナダ英語圏 フランス語ランドスケープ》
戦前のカナダ・バンクーバーに実在した日系人野球チームを描いた映画『バンクーバーの朝日』(2014)。この映画に出てくる旧日本人街も、現在では日本語学校と仏教会のほかには、再開発を待つ建物の壁面に見える日系商店の名前と、写真のような案内板にその面影を残すだけです。野球チームの史跡案内は、カナダ政府によるものなので 2 言語表示ですが、日本語学校はバンクーバー市の史跡なので英語表示のみです。
◇初出=『ふらんす』2017年6月号